北朝鮮は21日午後10時42分(日本時間同)に北西部のトンチャンリ(東倉里)の「西海衛星発射場」から軍事偵察衛星「万里鏡1号」を搭載した新型運搬ロケット「千里馬1型」を打ち上げた。5月と8月はいずれも失敗していたが、朝鮮中央通信は22日、3回目となった今回の打ち上げについて、成功したと伝え、衛星を地球周回軌道に「正確に進入させた」と主張した。打ち上げにはキム・ジョンウン(金正恩)総書記も立ち会ったといい、同通信は金総書記が関係者を「熱烈に祝福した」と報じた。
打ち上げを受け、韓国政府は22日、ハン・ドクス首相主宰の臨時閣議を開き、北朝鮮と2018年に結んだ南北軍事合意の効力の一部を停止することを決めた。韓国は、この合意によって制約されていた軍事境界線一帯での北朝鮮に対する偵察・監視活動などを再開する。ハン首相は効力停止について「わが国の安全保障に絶対必要な措置で、最小限の防衛措置、我々の法に基づく至極正当な措置」と強調した。
「9.19南北軍事合意」と呼ばれるこの合意は、2018年9月、当時のムン・ジェイン(文在寅)大統領と北朝鮮のキム・ジョンウン(金正恩)総書記が署名した「平壌共同宣言」の付属合意書だ。南北が軍事的緊張緩和のために努力することを申し合わせる内容で、南北は地上、海上、空中で一切の敵対行為をやめ、非武装地帯(DMZ)を平和地帯に変えるための対策を講じることとした。具体的には、軍事境界線上空への飛行禁止区域の設定、DMZ内にある監視所の撤収、黄海の北方限界線(NLL)付近の「平和水域」への転換と範囲の設定、板門店の共同警備区域(JSA)内での観光客の自由往来などが盛り込まれた。
当初は合意に盛り込まれた事項のうち、DMZ内の監視所(GP)の試験的撤去や、南北を流れるハンガン(漢江)河口での共同調査、朝鮮戦争で亡くなった兵士らの遺骨の発掘作業などが履行された。しかし、2019年にベトナム・ハノイで開かれた米朝首脳会談が物別れに終わったことで南北関係は再び冷え込み、合意の履行はストップ。専門家からは、合意締結後に南北境界地域での偶発的な衝突の可能性が著しく低下する効果があったとの評価もあるが、一度は試験的に撤去されたGPが再び設置されるなど、合意の意義は色あせたと指摘されていた。
韓国のユン・ソギョル(尹錫悦)大統領はかねてから、重大な事由が発生した場合には、合意の効力を停止する考えを示していた。また、先月、韓国国防部長官に就任したシン・ウォンシク氏も、合意について「できるだけ早く効力停止を推進する」としていた。今回、韓国政府は北朝鮮による軍事偵察衛星の打ち上げへの対抗措置として、合意のうち、飛行禁止区域の設定に関する効力の停止に踏み切った。
これを受け、北朝鮮も合意の「破棄」を宣言。北朝鮮国防省は23日、朝鮮労働党の機関紙「労働新聞」などを通じて声明を発表し、「合意によって中止していたすべての軍事的措置を直ちに復活させる」と表明した。軍事境界線地域に、より強力な武力と新型の軍事装備を配備するとしており、南北で軍事衝突が起きれば、責任は韓国側にあると威嚇した。
韓国紙・ハンギョレは南北関係について「軍事境界線一帯での偶発的な軍事衝突へと拡大する危険性が排除できない局面へと追い込まれている」と懸念した。
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