<W解説>慰安婦訴訟、原告代理人も予想外だった韓国逆転勝訴=今後の日韓関係への影響は?
<W解説>慰安婦訴訟、原告代理人も予想外だった韓国逆転勝訴=今後の日韓関係への影響は?
韓国の元慰安婦が日本政府に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、ソウル高裁は今月23日、原告の請求を却下した一審判決を取り消し、日本政府に元慰安婦の女性1人当たり2億ウォン(約2300万円)の慰謝料の支払いを命じた。ソウル高裁判決は、主権国家は他国の裁判所に裁かれないとする国際法上の「主権免除」の原則を認めない判断を下した。日本政府は主権免除の原則に反するとして一切の司法手続きに応じておらず、上告しないまま2審判決が確定する見通し。日本政府は、慰安婦などの請求権問題は1965年の日韓請求権協定で解決済みとの立場を取っており、判決は「断じて受け入れられない」とし、遺憾の意を示した。今回の判決が、改善傾向が続く日韓関係に悪影響を及ぼすのではないかと懸念の声も上がっているが、多くの日本メディアは、影響は限定的との見方を伝えている。

元慰安婦のイ・ヨンス(李容洙)さんや元慰安婦の遺族らは2016年12月、「精神的、肉体的な苦痛を強いられた」として、日本政府を相手取り1人当たり2億ウォンの損害賠償を求めて訴訟を提起した。21年4月のソウル中央地裁の一審判決は「国際慣習法や韓国の大法院(最高裁判所)の判例にのっとり、外国の主権行為について損害賠償の訴えは認められない」として原告の訴えを却下。慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」を確認した15年の日韓合意の有効性も認定した。

原告側は控訴し、今月23日、二審のソウル高裁は、一審判決を取り消し、日本政府に賠償を命じた。主権国家は他国の裁判所に裁かれないという国際法上の「主権免除」の原則が認められるかが焦点だったが、高裁は「国際慣習法に基づき、(裁判所所在の)国内でその国民に対して引き起こされた不法行為については、加害国の主権免除を認めない場合がある」と指摘。「国際慣習法上、被告である日本政府に韓国裁判所の裁判権を認定することが妥当だ」とし、慰安婦を集める過程で被告の違法行為が認められることから、適切な慰謝料を支払う必要があるとの判断を示した。

原告の一人、李容洙さんは判決後に記者団の取材に応じ、「日本政府は原告らに心から謝罪し、判決に従って法的な賠償をすべきだ」と話した。

韓国紙のハンギョレは24日付の社説で「戦時中に『軍慰安婦』のような反人道的な罪を犯した国は、その責任から逃れられないという原則を明らかにしたもので、歴史的・法的に意味が大きい判決だ」と評価した。聯合ニュースは「2015年の慰安婦合意を両国の公式合意として尊重している」とする外交部(外務省に相当)当局者のコメントを紹介。「外交的合意の枠組み内でこの問題を取り扱う姿勢を示したものとみられる」と伝えた。

一方、賠償の問題は1965年の日韓請求権協定で解決済みとして裁判に参加してこなかった日本政府は、今回の判決について「断じて受け入れられない」との立場を示した。松野博一官房長官は24日の記者会見で「国際法と日韓両国間の合意に明らかに反するもので、極めて遺憾で断じて受け入れられない。韓国側が適切な措置を講じることを強く求めていく」と述べた。また、外務省の岡野正敬事務次官は韓国のユン・ドンミン駐日大使を呼び、抗議した。さらに、上川陽子外相は26日、訪問先の韓国南部のプサン(釜山)で韓国のパク・チン(朴振)外相と会談。判決について「極めて遺憾」と抗議し、是正措置を求めた。

東京新聞などの報道によると、今回の判決は原告の代理人も予想していなかったことだという。同紙は今回の判決について「『主権免除』を適用せず、韓国の法曹界でも『非主流』と目される判断を示した」と指摘。「日韓の歴史問題が絡む裁判が両国関係を揺さぶる事態はムン・ジェイン(文在寅)前政権期に相次いだが、保守系のユン・ソンニョル(尹錫悦)政権下でも、そう簡単に葛藤は解消されない現実が浮き彫りになった」と伝えた。

前述のように、日本政府は「主権免除」の原則からこの裁判に応じておらず、判決は確定する見通し。毎日新聞は「日本との関係を重視する尹錫悦政権にとっても難題が一つ増えた形となる」と指摘した。一方、同紙は「日本政府に直ちに実害が出るわけではないため、日韓関係への影響は現時点では限定的とみられる」とも伝えた。

判決が確定すれば、原告側は韓国内の日本政府資産の差し押さえを目指すものとみられるが、実質的に資産差し押さえは困難とみられている。別の元慰安婦らの勝訴が確定した同種の訴訟では、資産目録の開示を命じた書類の受領を日本側が拒否。21年3月、ソウル中央地裁は元慰安婦らが韓国内にある日本政府資産を差し押さえることを認めない決定を下している。

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