元慰安婦のイ・ヨンス(李容洙)さんや元慰安婦の遺族らは2016年12月、「精神的、肉体的な苦痛を強いられた」として、日本政府を相手取り1人当たり2億ウォン(現レートで約2198万円)の損害賠償を求めて訴訟を提起した。21年4月のソウル中央地裁の一審判決は「国際慣習法や韓国の大法院(最高裁判所)の判例にのっとり、外国の主権行為について損害賠償の訴えは認められない」として原告の訴えを却下。慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」を確認した15年の慰安婦合意の有効性も認定した。
原告側は控訴し、先月23日、二審のソウル高裁は、一審判決を取り消し、日本政府に賠償を命じた。主権国家は他国の裁判所に裁かれないという国際法上の「主権免除」の原則が認められるかが焦点だったが、高裁は「国際慣習法に基づき、(裁判所所在の)国内でその国民に対して引き起こされた不法行為については、加害国の主権免除を認めない場合がある」と指摘。「国際慣習法上、被告である日本政府に韓国裁判所の裁判権を認定することが妥当だ」とし、慰安婦を集める過程で被告の違法行為が認められることから、適切な慰謝料を支払う必要があるとの判断を示した。
原告の一人、李容洙さんは判決後に記者団の取材に応じ、「日本政府は原告らに心から謝罪し、判決に従って法的な賠償をすべきだ」と話した。
韓国紙のハンギョレは先月24日付の社説で「戦時中に『軍慰安婦』のような反人道的な犯罪を犯した国は、その責任から逃れられないという原則を明らかにしたもので、歴史的・法的に意味が大きい判決だ」と評価した。
一方、日本政府は、今回の判決について「断じて受け入れられない」との立場を示した。外務省の岡野正敬事務次官は韓国のユン・ドンミン駐日大使を呼び、抗議した。さらに、上川陽子外相は先月26日、訪問先の韓国南部のプサン(釜山)で韓国のパク・チン(朴振)外相と会談。判決について「極めて遺憾」と抗議し、是正措置を求めた。
上川外相は今月8日の記者会見で上告する考えはないとした上で、「今回の判決は、国際法及び日韓両国間の合意に明らかに反するもので、断じて受け入れることはできないと韓国側に申し入れをしている。引き続き韓国側が適切な措置を講じることを求めていく」と語った。
韓国の大法院(最高裁)に上告する期限は今月8日までとなっていたが、日本政府が上告しなかったため判決は確定した。原告側は今後、韓国内の日本政府資産の差し押さえを目指すものとみられるが、強制的に差し押さえる手段はなく、実質的には困難とみられている。そのため、日本メディアは「日韓関係への影響は限定的」と伝えている。
韓国政府は「(元慰安婦の)名誉と尊厳を回復していく努力を続ける中、韓日両国が未来志向的な協力を続けていけるよう努力していく」とコメントした。その上で、15年の慰安婦合意を国家間の合意として「尊重している」と改めて強調。韓国メディアのヘラルド経済は「合意内容を生かし、外交的な枠で今回の事案の解決を模索する趣旨とみられる」と伝えた。
ムン・ジェイン(文在寅)前政権は慰安婦合意を事実上、反故にしてきたが、ユン・ソギョル(尹錫悦)政権は、国家間の合意として尊重する立場を一貫して示してきた。この合意に関して「尊重」との言葉は、前政権からは決して発せられることはなかった。今回の高裁判決を受け、日本政府が韓国側に適切な措置を求めていることに、野党の「共に民主党」は「日本政府があのようにふてぶてしい態度でやり返すのは、これまで尹政権が取ってきた対日屈辱外交のため」とし、尹政権に対し、「日本政府に堂々と対応せよ」と求めた。日本政府を直接批判するというよりも、尹政権にその矛先を向けている印象だ。これまで、日韓の歴史問題を「政権批判の道具にしている」と一部から指摘されていたが、今回もその姿勢が改めて浮き彫りとなった。
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