「国民の力」をめぐっては、総選挙を4月に控える中、キム・ギヒョン前代表が党の支持率低迷を受けて先月辞任。党トップが一時不在となったが、党は代表を置かない非常対策委員会体制に転換し、韓氏を委員長に指名した。韓氏は先月26日の党全国委員会での決議を経て正式に就任した。
韓氏はソウル市出身で、ソウル大学在学中に司法試験に合格し、その後、検事となった。2003年に起きた財閥SKグループの系列会社の粉飾会計事件や、2016年に表面化したパク・クネ(朴槿恵)政権下での国政介入事件など、数々の大型事件を担当した。大検察庁(最高検)検事長など検察で要職を務めた「エリート検事」で、尹大統領の検察時代からの最側近とされる。一昨年5月の尹政権発足時から法務部長官(法相)を務めてきた。保守層から人気が高く、将来の大統領候補として期待する声もある。
世論調査会社の韓国ギャラップが先月行った世論調査では、4月の総選挙で「政府をけん制するために野党が勝利すべきだ」と答えた人は51%で、「政府を後押しするため、与党が勝利すべきだ」と答えた人(35%)を上回った。
「国民の力」は韓氏を党トップに起用し、まずは党の支持回復を図ろうとした。韓氏は指名を受けた当時、「庶民と弱者の側に立ち、この国の未来に備えたい」と意欲を語っていた。
こうした中、韓国大統領室は21日、韓氏の辞任を要求した。大統領室の秘書室長が同日、韓氏に会って辞任を求めたという。総選挙を控える中、大統領室と与党トップが対立する異例の事態となっている。
対立要因の一つとされるのが、尹大統領夫人の金建希氏の疑惑をめぐる対応にある。疑惑は金氏が在米韓国人の牧師から高級ブランドバッグを受け取ったとされる場面の隠しカメラの映像が公開されて浮上した。映像は2022年9月のものとされ、金氏が運営する芸術イベント企画会社内で撮影されたとみられている。韓国では公務員やその配偶者が職務と関連して一定額以上の金品を受け取ることを禁じる「不正請託防止法」があり、同法違反の疑いが指摘されている。
映像は国内左派系のYouTubeメディアに暴露され明るみになった。これに、最大野党「共に民主党」は「YouTubeチャンネルの主張が事実であれば、明らかな違反行為、見返り性のある賄賂であるかどうかも明らかにしなければならない」と批判を強めている。一方、この映像はYouTubeチャンネル「ソウルの声」の記者が仕掛けたもので、「おとり取材」との批判も上がっている。報道によると、映像は金氏にバッグを渡したとされる牧師がつけていた腕時計の内蔵カメラで撮影したとされ、「ソウルの声」の記者は事前にバッグを牧師に渡していたという。
金氏をめぐる疑惑に大統領室は、金氏は「おとり取材」の被害者であり、疑惑に対する釈明や謝罪は不要との立場を示した。一方、「国民の力」内部からは金氏は謝罪すべきとの声が上がり、韓氏はこれに加勢する形で、「国民が心配するような部分があったと思う」と発言。「国民目線」で対応する考えを示した。
大統領室は韓氏の対応に不快感を示し、イ・グァンソプ大統領秘書室長が21日に韓氏と会い、非常対策委員長の辞任を求めた。韓国紙のハンギョレは尹大統領の就任以来、「国民の力」の代表は交代が続いており、臨時を除いても韓氏が3人目だと指摘。4月10日に総選挙を控える中「与党指導部が再び交代の危機に直面している」と伝えた。
一方、韓氏は21日、「やるべきことをやる」とコメント。22日には記者団に「私の任期は総選挙後まで続く」と話し、辞任を否定した。
韓氏は党代表として4月の総選挙に向け党を牽引(けんいん)する役割を担っている。聯合ニュースは「尹大統領の腹心とも呼ばれた韓氏が金氏の疑惑への対応などで『独り立ち』を続け、与党と大統領室の関係に見直しを試みるか注目される」と指摘する一方、「総選挙が目前に迫っており、与党分裂の懸念を受け、双方が歩み寄る可能性もあるとみられる」と伝えた。
23日には尹氏と韓氏は前日に中部のチュンチョンナムド(忠清南道)で発生した大規模な火災の視察のため訪れた現場で居合わせ、あいさつする場面も見られた。ソウルに戻る際、韓氏は尹氏が乗る大統領専用列車に同乗したという。韓国メディアは「対立収束か」(聯合ニュース)などと報じている。
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