2022年に大統領に就任した尹氏は、米韓軍事同盟に関する専門性を評価し、イ氏を国防部長官に指名した。中将出身者が国防部長官に就任するのは、ノ・ムヒョン(盧武鉉)政権で指名されたユン・グァンウン(尹光雄)海軍中将以来、18年ぶりのことだった。
就任翌月の2022年6月に開かれた米韓国防相会議で、イ氏は米韓合同軍事演習を拡大実施することで米国側と合意した。昨年6月には当時の浜田靖一防衛相と会談。日韓防衛相会談の開催は2019年11月以来、約3年半ぶりことだった。両氏は、2018年12月に韓国海軍が日本海上で海上自衛隊の哨戒機に火器管制レーダーを照射したとされる問題をめぐり、再発防止策を含めた協議を加速させることで一致した。この問題をめぐっては、韓国側はレーダーの照射は行っていないと一貫して主張しており、改善が進む日韓関係の中で残された課題の一つとなっている。当時の会談では、事件をめぐる日韓の主張は異なるものの、意思疎通の重要性について確認し、レーダー照射などの敵対的とみなされかねない行為を含む類似事案の防止策を事務レベルで協議することを申し合わせた。
昨年7月、韓国で水害が発生し、行方不明者を捜索中の海兵隊員が死亡する事故が発生した。海兵隊の捜査チームが調査を進めたが、イ氏がチームに不当な圧力をかけた疑いが浮上した。幹部らによる事故防止の措置が不十分だったとする調査報告書を捜査チームが作成したところ、国防部は調査責任者を解任した。9月、最大野党の「共に民主党」は政治家らの捜査を行う高官犯罪捜査庁にイ氏を告発した。その後、イ氏は国防部長官を辞任した。「共に民主党」が弾劾訴追案を出す動きを見せる中、職務が停止される事態を事前に回避しようとしたとの見方が広がった。国会で過半数を占める同党が弾劾訴追案を提出すれば可決され、憲法裁判所が判断を下すまで職務停止となることは確実視されていたからだ。
そのイ氏は先月4日、オーストラリア大使に任命された。しかし、イ氏を捜査している前出の高官犯罪捜査庁がイ氏を出国禁止にしていたことが判明。法務部(法務省に相当)がこの措置を解除し、イ氏は出国したが、野党は出国は「逃避だ」と批判した。イ氏は大使に赴任するも、先月21日、防衛産業協力に関連する会議に出席するためとして韓国に帰国した。その後、25日、イ氏は大使を辞任する考えを明らかにした。
見出しに「電撃辞任」との表現を用いた韓国紙の東亜日報は、「大使に任命されて25日、オーストラリアから帰国して8日での辞任だ」と伝えた。朝鮮日報は先月30日付の社説で、「法的に被疑者の立場にあった人物が大使に任命されたことがまず何よりも理解しがたいことだった」と指摘。その上で、「尹大統領は一体何を考えていたのだろうか」と批判した。
韓国では今月10日に総選挙が行われる。疑惑がある人物を大使に任命した尹大統領の強硬姿勢には批判が高まっており、与党「国民の力」の一部からは世論の悪化を懸念し、イ氏の辞任を求める声が出ていた。同党の支持率低下の一因にもなっており、尹政権はイ氏を事実上の更迭とすることで火消しを図った形だ。
朝鮮日報は前出の社説で、「数々の世論調査によると、近く行われる国会議員選挙で与党・『国民の力』は苦戦している。その原因は何か政治的に大きな失敗や不祥事があったからではなく、尹大統領の強引さとコミュニケーション不足にあるという」とし、尹氏について「民心を読み取れないというレベルではなく、むしろ自分の考えにこだわり逆行してはいないか」と指摘。「尹大統領は自らが起こしたイ大使をめぐる今回の問題について未だに何も語っていない」と批判した。
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