<W解説>韓国・梨泰院雑踏事故から1年7か月、国会で特別法案可決=真相究明へ一歩
<W解説>韓国・梨泰院雑踏事故から1年7か月、国会で特別法案可決=真相究明へ一歩
2022年10月に韓国・ソウルの繁華街、イテウォン(梨泰院)で起きた雑踏事故をめぐり、事故の真相究明に向けた特別法案が今月2日、韓国国会の本会議で可決した。真相究明のための再調査を柱とする同法案をめぐっては、国会の議席の過半数を握る「共に民主党」の主導で今年1月に可決したが、ユン・ソギョル(尹錫悦)大統領が拒否権を行使。国会に差し戻されていた。しかし、与野党は今月1日、法案を一部修正することで合意。翌日の本会議で、与野党の賛成多数で可決した。法案は事故から1年7か月を経て、ようやく成立の見通しとなった。

事故は一昨年10月29日、ハロウィーンを前にした週末で人がごった返す梨泰院の通りで起き、日本人2人を含む159人が死亡した。犠牲者は10代、20代の若者が多かった。

この事故では警備体制の甘さや警察や消防の対応の不備が指摘された。新型コロナウイルスの流行に伴う行動制限がない中で迎えるハロウィーンということで、多くの人出が予想されていたが、警備に動員された警察官らの人数は少数だった。また、事故発生の数時間前から「人が多すぎて圧死しそうだ」などといった通報が警察や消防などに多数寄せられていたが、適切な対応を取らなかったことが事故を招いたとの批判が噴出した。

事故を受けて、韓国の警察庁は約500人で構成する特別捜査本部を発足させ、捜査を進めた。昨年1月、捜査結果を発表し、管轄の自治体や警察、消防など、法令上、安全予防や対応の義務がある機関が事前の安全対策を怠るなど、事故の予防対策を取らなかったために起きた「人災」と結論付けた。

捜査の結果、安全対策や通報への対応が不十分だったなどとして、警察関係者らが逮捕・書類送検された。

一方、遺族は警察による身内の捜査では真相究明はできないと反発。事故の真相究明を求め、野党とともに特別法の制定を目指してきた。特別法は、真相究明のために特別委員会を設置し、追加の調査を行うことを骨子とする。

この法案に政府は、「事故原因を究明するため、警察において500人を超える人員で特別捜査を進め、その結果を公開し、検察でも補完捜査を実施し、政府は国会の国政調査にも誠実に応じてきた」として反対の立場を示した。

しかし、韓国国会は野党が過半数を握っているため、法案は今年1月、最大野党「共に民主党」の賛成多数で可決した。成立となるのか注目されていたが、尹大統領が拒否権を行使した。韓国の大統領は国会が可決した法案を事実上拒否できる権限を持つ。拒否権が行使された法案を再可決するためには、在籍議員の過半数の出席と、出席議員の3分の2以上の賛成が必要となる。尹大統領はそれまで拒否権行使を繰り返してきており、支持率低下の大きな要因にもなってきた。

韓国では先月10日、総選挙が行われた。小選挙区(254議席)、比例代表(46議席)で争われ、尹政権の「中間評価」と位置付けられた。開票の結果、「国民の力」が108議席、「共に民主党」が175議席を獲得、尹大統領を支える「国民の力」が大敗する結果となった。

選挙結果を受けて、これまで「独善的」と批判されてきた尹大統領の政権運営も転換を迫られることとなった。先月29日、尹大統領は2022年5月の政権発足以来、初めて「共に民主党」のイ・ジェミョン(李在明)代表と会談した。李代表は梨泰院事故の特別法案に関しても取り上げ、成立に向けて協力を求めた。

その後、与野党は今月1日、法案を一部修正して翌日の国会本会議で取り上げることに合意した。修正案は、特別調査委員会の人選について、与野党が4人ずつ推薦した委員と、与野党の協議を経て国会議長が推薦した1人の計9人で構成することとした。政府・与党が難色を示した前回の法案では、委員のうち3人は、国会議長が遺族などと協議の上で推薦するとしていた。

合意翌日の2日に本会議が開かれ、法案は与野党の賛成多数により成立した。

韓国紙のハンギョレは「惨事が起きてから1年6か月、尹大統領が拒否権を行使してから3か月が経ってのことだ。先月29日に行われた尹大統領と『共に民主党』の李代表の『トップ会談』で特別法の話が出てから、与野党が一歩ずつ譲歩し、法案可決に合意したことに伴うものだ」と解説した。

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