NLLは、朝鮮戦争休戦後の1953年8月に国連軍によって設定された海上の境界線。朝鮮半島上の軍事境界線を延長する形で定められた。休戦に伴い、戦争の再燃を防ぐために韓国と北朝鮮の実効支配地域を決める必要が生じ、国連軍は陸上については軍事境界線、海上については北方限界線を韓国と北朝鮮の軍事境界線として設定し、北朝鮮に通告した。しかし、北朝鮮はNLLは無効だと主張。1999年に北方限界線より南寄りに「海上軍事境界線」を一方的に定めた。
北朝鮮は今でこそNLLを否定しているが、長年、NLLの存在を認めてきた。1959年発刊の「朝鮮中央年鑑」では、北朝鮮自らがNLLを「軍事分界線」として表記している。また、1992年2月に出された南北基本合意書では、第11条で「南と北の不可侵境界線と区域は1953年7月27日の軍事停戦に関する協定に規定された軍事分界線とこれまで双方が管轄してきた区域とする」と確認しており、北方分界線を、事実上の南北間不可侵境界線として認めている。さらに、1992年9月に発表された不可侵付属合意書では、第10条で「南と北の海上不可侵境界線は今後、引き続き協議する」としながらも、「海上不可侵区域は海上不可侵境界線が確定されるまでこれまで管轄してきた区域とする」と確認している。
北朝鮮と韓国の双方が主張する境界線が存在する黄海では、これまで幾度となく南北間の武力衝突が起きてきた。2010年3月には韓国軍の哨戒艦「天安」が北朝鮮の魚雷攻撃によるとされる爆発で沈没し、乗組員46人が死亡した。同年11月には、黄海上の韓国領、テヨンピョンド(大延坪島)を砲撃し、韓国の軍人と民間人の計4人が死亡、19人が重軽傷を負う事件が発生した。朝鮮戦争の休戦後、北朝鮮が韓国領土を直接攻撃するのは初めてのことで、衝撃が広がった。
そして、今年1月には、北朝鮮は延坪島に近い海域に3日連続で砲撃を行った。韓国側に被害はなかったが、2010年の事件が思い起こされ、緊張が高まった。島民には一時、避難命令が出された。
キム・ジョンウン(金正恩)総書記は今年1月の最高人民会議(国会)で「不法無法の『北方限界線』をはじめとするいかなる境界線も許されず、大韓民国が我々の領土、領空、領海を0.001ミリでも侵犯するならば、それは即、戦争挑発とみなす」と警告した。また、2月に、海軍に配備する新型の地対艦ミサイル「パダスリ6」の発射実験を視察した際にはNLLを改めて否定した。金総書記はNLLには国際法上の根拠がなく、韓国が漁船の取り締まりなどを口実に侵犯を繰り返していると主張し、延坪島などの北側海域で軍事態勢を強化するよう指示。北朝鮮が境界線と主張する、前出の「海上境界線」を「実際の武力行使で徹底的に守る」と述べたほか、「我々が認める海上国境線を敵が侵犯する時は、武力挑発とみなす」と警告した。金総書記はこの時、「海上境界線」を「国境線」との表現を初めて使って「海上国境線」とした。この表現は昨年末、金氏が南北を「二つの国」とみなすとした方針転換を反映したものとして注目された。
そして、今月26日、北朝鮮のキム・ガンイル国防次官は、朝鮮中央通信を通じて談話を発表。韓国の海軍と海洋警察の機動巡察により、「敵が海上を侵犯する回数も増えている」とした上で「海上主権が侵害され続けるのをただ傍観しているわけにはいかない。ある瞬間に水上であれ自衛力を行使することもあり得る」と警告した。
談話に先立ち、北朝鮮では24日に金総書記も出席して朝鮮労働党の政治局会議が開かれた。キム国防次官の談話によると、軍事最高指導部は会議で「国家主権に対する敵たちの挑発的な行動に対し、攻撃的な対応を取るよう指示した」という。NLL付近での軍事行動を暗示しているのではないかと懸念される。
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