「9.19南北軍事合意」と呼ばれるこの合意は、2018年9月、当時のムン・ジェイン(文在寅)大統領と北朝鮮のキム・ジョンウン(金正恩)総書記が署名した「平壌共同宣言」の付属合意書だ。南北が軍事的緊張緩和のために努力することを申し合わせる内容で、南北は地上、海上、空中で一切の敵対行為をやめ、非武装地帯(DMZ)を平和地帯に変えるための対策を講じることとした。
当初は合意に盛り込まれた事項のうち、DMZ内の監視所(GP)の試験的撤去や、南北を流れるハンガン(漢江)河口での共同調査、朝鮮戦争で亡くなった兵士らの遺骨の発掘作業などが履行された。しかし、2019年にベトナム・ハノイで開かれた米朝首脳会談が物別れに終わったことで南北関係は再び冷え込み、合意の履行はストップした。
北朝鮮に強硬な姿勢で臨んでいる韓国のユン・ソギョル(尹錫悦)大統領は、かねてから重大な事由が発生した場合は合意の効力を停止する考えを示していた。また、昨年10月に韓国国防部長官に就任したシン・ウォンシク氏も、合意について「できるだけ早く効力停止を推進する」としていた。
昨年11月、北朝鮮が軍事偵察衛星を打ち上げ、韓国政府はこの対抗措置として同月、南北軍事合意に盛り込まれている「飛行禁止区域設定」の効力停止を決定した。一方、北朝鮮も直後に、「合意によって中止していたすべての軍事的措置を直ちに復活させる」と合意の「破棄」を表明。南北軍事境界線付近の監視所を復活させ、兵士や火器を再配置した。
南北関係が緊張の一途をたどる中、北朝鮮は先月28日以降、ごみや汚物などをぶら下げた風船を韓国に大量に飛ばしたほか、全地球測位システム(GPS)の妨害電波も発信。先月上旬に脱北者団体が韓国から北朝鮮に向けて金正恩体制を批判するビラを飛ばしたことへの対抗措置とみられている。北朝鮮のキム・ガンイル国防次官は2日発表の談話を通じ「5月28日夜から6月2日未明までにごみ15トンを各種器具約3500個を使って韓国の国境付近と首都圏地域に飛ばした」と主張した。韓国政府は「北朝鮮政権の実態と水準を自ら世界に示した」と非難し、こうした行為をやめなければ「耐え難いあらゆる措置を取る」と警告した。また、国防部(部は省に相当)のシン・ウォンシク長官は2日、シンガポールで米国のオースティン国防長官と会談し、今回の北朝鮮の行為は朝鮮戦争の休戦協定違反に当たるとの認識を確認した。
そして、韓国政府は4日、対抗措置として南北軍事合意の効力を全面的に停止することを正式決定した。期間は「南北間の相互信頼が回復するまで」としている。韓国大統領府は効力停止により、「北朝鮮の挑発に対する十分かつ即応的な措置が可能になる」と強調した。具体的には、軍事境界線一帯での軍事訓練が可能になるほか、6年以上中断している、南北軍事境界線付近での拡声器による対北朝鮮宣伝放送も再開できる。この放送は韓国の豊かな生活ぶりなどを伝えていることから、最前線の北朝鮮軍兵士への心理的影響が大きいとされる。
韓国国家安保室は「今回の措置は韓国の方が定める手続きによる正当かつ合法的なもの。政府はわが国民の生命と安全を守るために必要なあらゆる措置を講じる」と強調した。前述のように、北朝鮮は昨年11月の時点で合意の事実上の破棄を宣言してはいるものの、今回の韓国側の決定に反発する可能性もあり、南北のさらなる対立激化が懸念される。
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