リ氏の亡命は、韓国紙の朝鮮日報が今月16日にリ氏のインタビュー記事を掲載したことで明らかになった。リ氏は北朝鮮の長年の友好国であるキューバに2度にわたって勤務した。北朝鮮外務省ではアフリカ・アラブ・ラテンアメリカ局に所属。代表的な「南米通」とされる。また、2013年にミサイルなどの兵器を積んだ北朝鮮の貨物船がパナマ運河を通過しようとして拿捕(だほ)された事件では、パナマ側との交渉を担当。乗組員の釈放につなげ、金総書記から表彰されたこともある。
今年2月、韓国は北朝鮮の伝統的な友好国であるキューバとの国交樹立を発表した。韓国にとってキューバは、中南米諸国の中で唯一、国交がない国だった。キューバとの外交関係の樹立に向け、韓国側は北朝鮮の妨害を避けるために水面下で動いていたという。韓国外交部(外務省に相当)はキューバとの国交樹立を発表した際、「中南米外交強化の重要な転換点だ」と指摘。ユン・ソギョル(尹錫悦)大統領が掲げる「グローバル中枢国家」としての「外交の地平を拡張する」と強調し、「両国の経済協力拡大や韓国企業の進出支援の制度的基盤を構築する」と説明した。
しかし、北朝鮮にとっては外交基盤を崩された形となった。その不満の表れなのか、今年5月、北朝鮮の朝鮮中央通信など国内メディアは、故キム・イルソン(金日成)主席の生誕記念日にメッセージを送ってきた国を紹介した中、キューバに言及しなかった。一方、キューバは今年も例年通り金主席の生誕記念日に祝いのメッセージを贈っている。当時の韓国・聯合ニュースは北朝鮮のこの対応について「意図的なものである可能性が高い」と指摘した。
朝鮮日報によると、亡命したリ氏は在キューバ大使館で韓国とキューバとの国交を阻止する任務を担当していたという。リ氏は亡命理由の一つに職務評価をめぐる北朝鮮外務省本部との対立を挙げており、韓国とキューバの国交樹立が亡命につながった可能性もある。リ氏は昨年11月、妻と子供を伴い韓国入りした。朝鮮日報のインタビューに「北朝鮮の体制に対する嫌気、暗たんとした未来への悲観、そんな社会から抜け出したい気持ちから脱北を考えるようになった」と説明した。また、「北朝鮮の住民なら誰もが韓国で暮らしてみたいと思うようになる。子供の未来を思えば、(韓国との)統一しかないとの考えを持っている」とも語った。
2016年8月に在英北朝鮮大使館のナンバー2の公使を務めたテ・ヨンホ氏が脱北。2019年には駐イタリア大使代理を務めていたチョ・ソンギル氏、駐クウェート大使代理だったリュ・ヒョヌ氏が脱北し韓国入りした。海外で自由民主体制の優越性に気づけば、脱北に気持ちが向かうのもうなずける。聯合ニュースは「海外で勤務する外交官は、北朝鮮内のエリートに比べて脱北しやすい面もある」と解説した。
また、韓国の公共放送KBSは「コロナ禍が明けた後のここ数年間、北朝鮮が海外駐在官の交代を行っていることを背景に、世界各地に駐在していた北朝鮮のエリート層の亡命が相次いでいる」と指摘。韓国統一部のまとめでは、エリート層の脱北者は昨年約10人に上り、2017年以降、最も多かった。
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