<W解説>韓国軍による対北宣伝放送がまた再開=南北の応酬続く様相
<W解説>韓国軍による対北宣伝放送がまた再開=南北の応酬続く様相
韓国軍は今月19日、南北軍事境界線付近での拡声器による北朝鮮向け宣伝放送を39日ぶりに再開した。北朝鮮が、韓国に向けて汚物などをぶら下げた風船を飛ばしたことへの対抗措置。韓国軍は宣伝放送を当面、続けることにしており、南北の応酬は続きそうだ。

南北関係が緊張の一途をたどる中、北朝鮮は5月下旬以降、ゴミや汚物などをぶら下げた風船を韓国に断続して飛ばした。脱北者団体が韓国から体制批判のビラを北朝鮮に飛ばしたことへの対抗措置とみられた。北朝鮮から飛んできたゴミ付き風船は、韓国各地で風船にくくり付けられたゴミが車に落ちてガラスが破損するなどの被害が出るなどし、韓国各地で混乱が広がった。韓国政府は当時、「北朝鮮政権の実態と水準を自ら世界に示した」と非難し、こうした行為をやめなければ「耐え難いあらゆる措置を取る」と警告した。

その後、韓国政府は南北軍事合意の効力を全面的に停止することを先月、正式決定した。韓国大統領府は当時、効力停止により、「北朝鮮の挑発に対する十分かつ即応的な措置が可能になる」と強調した。停止に伴い、南北軍事境界線付近での拡声器による対北朝鮮宣伝放送も再開できることとなった。韓国軍による北朝鮮向けの宣伝放送は1962年に始まり、その後、南北関係の改善や悪化に伴って中断、再開を繰り返してきた。放送は大スピーカーを使って行い、内容は、韓国の民主主義制度が北朝鮮の政治制度よりも優れていることへのアピールや、北朝鮮の体制批判、韓国や海外のニュース、韓国の歌などだ。北朝鮮の兵士などの動揺を狙うのが目的だ。

韓国軍は先月9日、宣伝放送を6年ぶりに再開。約2時間にわたって放送を行った。「北朝鮮の同胞の皆さん、アンニョンハセヨ(こんにちは)」とのアナウンサーの呼びかけから放送を開始し、韓国のサムスン電子のスマートフォンが世界38カ国で1位の出荷台数を記録していることや、北朝鮮市場でのインフレの傾向などを伝えた。途中、韓国の人気グループ「BTS」のヒット曲「Dynamite」などのK-POPも流した。

一方、北朝鮮はその後、金総書記の妹、ヨジョン(与正)氏が今月16日、朝鮮中央通信を通じて談話を発表。韓国からビラ付きの風船が再び飛んできたことに怒りをあらわにし「すさまじい代償を覚悟しなければならない」と報復を示唆した。そして18日、北朝鮮は22日ぶりに「汚物風船」を韓国に向けて飛ばした。

これを受け韓国軍は19日、北朝鮮向けの宣伝放送を39日ぶりに再開した。この日の放送では、金正恩政権が韓国文化の流入を厳しく取り締まることを主たる目的として2020年に制定した「反動思想文化排撃法」と、金総書記の思想、行動との矛盾を指摘した。韓国紙の朝鮮日報によると、放送では「大韓民国には趣味を幅広く、深く楽しむ人を意味するドクフ(オタク)という言葉があるが、北朝鮮にもドクフがいる」とし、「バスケットボールが好きで、そのボールを抱いて寝るほどの金正恩だ」と伝えた。金総書記は10代のころにスイスに留学しているが、当時の金氏はバスケットボールが好きで競技に夢中になっており、日本の漫画「スラムダンク」を愛読していたとする当時のクラスメートの証言がある。放送はその点を指摘し、「金正恩自身は米国の文化をもてはやしておきながら、住民には文化を知らせないが、その意図が気になる」と批判した。

朝鮮日報によると、北朝鮮の専門家は同紙の取材に「最近、北朝鮮当局は反動思想文化排撃法により、韓国の映像物を視聴した若い学生たちに団体で銃殺刑、懲役刑を下すなど厳しく統制しているが、実際は最高指導者が海外文化を存分に楽しむ『ネロナムブル(身内に甘く、身内以外には厳しいこと)』の状況だ。この点を北朝鮮住民に知らせる意図があったようだ」と分析した。

先月9日の宣伝放送は2時間にとどまり、翌日以降、継続することはなかったが、今回、韓国軍は19日に再開してから連日、放送を続けている。軍当局は、北朝鮮が「汚物風船」を飛ばすのを中断するまで、当面、放送を継続する方針だ。南北の応酬がしばらく続きそうな様相だ。

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