金氏の関与が取り沙汰されているのは輸入車ディーラー「ドイツ・モーターズ」の株価操作事件。2009年から12年までの3年間、「ドイツ・モーターズ」の株価を当時の代表らが操作し、2000ウォン(現レートで約225円)台の株価を8000ウォン台までつり上げたとされるもので、金氏は株価操作に資金を出した疑惑や、株価操作が疑われる時期に直接的または間接的に取引に介入した疑惑がもたれている。
金氏には、株価の不正操作疑惑のほかに、2022年9月に、在米韓国人の牧師から高級ブランド「ディオール」のバッグを受け取ったとされる疑惑もある。韓国では公務員やその配偶者が職務と関連して一定額以上の金品を受け取ることを禁じる「不正請託防止法」があり、金氏には同法違反の疑いが指摘されている。昨年11月、尹政権に批判的なユーチューブチャンネルで、その一部始終を収めたとする動画が公開され、疑惑が取り沙汰されることとなった。この疑惑について、尹大統領は今年5月の記者会見で「賢明ではない妻の行動のせいで、国民の皆様にご心配をおかけしたことをおわびしたい」と陳謝した。
ソウル中央地検は同月、捜査チームを設立し、疑惑の解明を進めている。そして今月20日、地検は12時間にわたって金氏から事情を聴いた。聴取後、金氏側は「誠実に捜査に臨み、事実をありのまま述べた」とコメントした。また、大統領室の関係者は「検察が捜査中の事案について大統領室が直接言及するのは適切ではないと判断している」として言及を避けた。
一方、今回の金氏への事情聴取では、検察トップのイ・ウォンソク検事総長が事後報告しか受けていないことが分かり、波紋を広げている。聴取の事実がイ氏に知らされたのは、聴取開始から約10時間後だった。韓国紙のハンギョレによると、最高検察庁の関係者は同紙の取材に「ソウル中央地検は聴取が終わりに差し掛かった時点で最高検察庁に事後報告してきており、検察総長(検事総長)はこのような状況に深く苦心している」と話した。イ氏は2022年5月に大検察庁(最高検)次長に就任し、検事総長代行を務めた後、同年9月に正式に検事総長に就任した。今年9月に任期満了を迎える。金氏への捜査に関してイ氏は、「法の前に例外も、特恵も、聖域もない」と主張し、金氏を検察庁に呼び出して捜査すべきだと繰り返し主張してきたが、今回、聴取場所も警備上の理由からソウル中央地検管轄内の政府の施設で行われた。
前述の捜査チームは、金氏をめぐる不正疑惑に対して、迅速かつ厳正な捜査を行うため、イ氏の指示の下で立ち上がったが、その11日後に、金氏の疑惑の捜査に当時当たっていたソウル中央地検の幹部が一斉に交代するという異例の人事異動もあった。これについて韓国メディアは当時、政権側からの圧力があった可能性を指摘した。
こうした過去もあり、イ検事総長とソウル中央地検との間に軋轢(あつれき)が生じているとの見方もある。しかし、株価操作事件に関しては、文前政権時に検事総長の捜査指揮権がはく奪されており、ソウル中央地検はこれを理由に「報告は適切ではないと判断した」と説明した。今回、聴取は株価操作事件に関する聞き取りの後、ブランドバック事件に関して行われた。ハンギョレによると、同地検の関係者は、ブランドバッグ事件に関しては当初、書面聴取のみ行う予定で、対面聴取も実施するかは不透明だったため、総長に事前に報告できなかったと説明している。この関係者は「ドイツ・モーターズ事件の対面聴取が終わった後、金氏側を説得し、ブランドバック事件まで聴取することになった。これを受けてイ総長に報告した」と話した。
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