<W解説>「佐渡島の金山」世界遺産登録、反対だった韓国と見出した着地点
<W解説>「佐渡島の金山」世界遺産登録、反対だった韓国と見出した着地点
ユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界遺産委員会は27日、新潟県佐渡市の「佐渡島(さど)の金山」の世界文化遺産登録を決めた。日本の文化遺産としては21件目で、自然遺産も合わせた世界遺産は26件となった。「佐渡島の金山」をめぐっては、韓国が朝鮮半島出身者の強制労働があったとして反発していた経緯があり、日韓が水面下で話し合いを続けてきた。日韓両政府は、朝鮮半島出身労働者に関する歴史を含む「全体の歴史」を現地の展示に反映することで合意。27日の世界遺産委員会では、韓国を含む全会一致で登録が決定した。

「佐渡島の金山」は、「相川鶴子(つるし)金銀山」と「西三川砂金山」の2つの鉱山遺跡で構成。17世紀には世界最大級の金の生産地となり、1989年まで操業が続けられてきた。日本政府や新潟県は「江戸時代にヨーロッパとは異なる伝統的手工業で大規模な金生産システムを発展させた、世界的にもまれな鉱山だ」としている。

一方、佐渡金山には戦時中、労働力不足を補うため、朝鮮半島出身労働者が動員された。韓国側は、強制労働があったとして登録に反対し続けてきた。韓国は世界遺産委員会の委員国でもあり、21か国で構成される委員会は、世界遺産登録の決定に当たり全会一致の基本原則があることから、日本は韓国の同意を得ることが求められていた。韓国は、日本が登録を目指すのであれば、朝鮮半島出身労働者が強制労働に従事した歴史を反映すべきとの主張を続けてきた。

ただ、強制労働か否かの見解は日韓で食い違っており、日本政府は2021年4月、先の大戦中に行われた朝鮮半島から日本本土への労働者動員について「強制労働には該当しない」との答弁書を閣議決定している。

「佐渡島の金山」をめぐり、ユネスコの諮問機関であるイコモスは先月、日本側に補足の説明を求める「情報照会」を勧告。世界遺産としての価値は認めた一方、明治以降の史跡が多い地区の除外や遺産を保護するための緩衝地帯の拡大などを求めた。さらに、韓国の主張を念頭に、これまで日本が遺産の価値として強調していた江戸期に限らず、全期間の金山の歴史を説明する展示を求めた。

日本はこれらの勧告内容に対応。韓国側と水面下で協議を重ね、佐渡市内の展示施設で朝鮮半島出身者を含む鉱山の労働者に関する新たな展示を始めることなどを決め、合意に至った。これに関連し、既に現地の施設では朝鮮半島出身労働者が危険な作業に従事する割合が高かったとするデータが展示されている。

27日、新たな世界遺産を決めるユネスコの世界遺産委員会の会議がインドのニューデリーで行われ、審議の結果、韓国を含む委員国の全会一致で「佐渡島の金山」の世界文化遺産登録が決まった。同委員会は「世界の他の地域で採鉱などの機械化が進んだ時代に、高度な手工業を継続したアジアにおけるほかに類を見ない事例」と評価した。日本は委員会で「すべての労働者、特に朝鮮半島出身労働者を誠実に記憶にとどめ、金山の全体の歴史に関する説明・展示戦略を強化すべく引き続き努力する」と述べた。また、韓国は「決定に賛同する。委員会に先立ち関連資料を展示した日本側の対応は、韓国側の懸念を払しょくするもので歓迎する」と述べた。

28日の読売新聞は「日韓両政府は朝鮮半島出身者を含む労働者に関し、現地の展示施設で『強制労働』に関する文言を使用しない一方、当時の暮らしぶりなどを説明することで事前に折り合った」と背景を解説。「日韓は国交正常化60年を来年に控え、関係改善が進んでおり、両政府関係者には新たな火種を抱えたくないとの思惑が働いたとみられる」と伝えた。また、朝日新聞は27日、「近年例を見ない良好な関係も合意を後押しした」と報じた。

世界遺産登録を目指す活動が始まってから28年、悲願が実り、地元は歓喜に沸いた。「佐渡島の金山」のガイダンス施設「きらりうむ佐渡」では、登録が決まると集まった地元住民や関係者らから歓声が上がり、くす玉を割って喜びを分かち合った。市民団体「佐渡を世界遺産にする会」の中野洸(こう)会長は「これからが大事。貴重な文化遺産を守り、活用して、この島が豊かになるよう皆さんと頑張っていきたい」とあいさつした。また、その後の記者会見で「韓国も最終的には認めてくれた。いかに仲良くやっていくか。我々の責務だと思っている」と語った。

韓国のチョ・テヨル外交部長官(外相)は27日、「(日本が)現場に設置した展示物はもちろん、追悼式など関連後続措置の履行においても、わが政府と緊密に意思疎通を図りながら誠意ある姿勢を示すことを期待する」と述べた。また、最大野党「共に民主党」の報道官は「強制労働を最後まで認めなかった」とし、登録に同意したユン・ソギョル(尹錫悦)政権を「日本の歴史歪曲(わいきょく)を容認した」と批判した。

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