<W解説>韓国、医学部定員増めぐる問題の混乱続く=韓国医師協会長がハンストに踏み切るも6日目で断念
<W解説>韓国、医学部定員増めぐる問題の混乱続く=韓国医師協会長がハンストに踏み切るも6日目で断念
韓国政府が、医師不足の解消を目的に大学医学部の入学定員増員を決めたことに反発し、ハンガーストライキを続けていた大韓医師協会のイム・ヒョンデク(林賢澤)会長が先月31日、体調悪化により病院に搬送された。韓国政府が今年2月に医学部の定員増の方針を発表するや、医療界は反発。研修医が集団離脱するなどして抵抗したが、教育部(部は省に相当)は今年5月、来年度の募集人員の増員を決定した。医師協会の林会長は医療現場が混乱に陥っていると訴え、「医協会長として、断食によって本心を伝えたい」として、先月26日からハンストを開始。政府が態度を変えるまで続けるとしていたが、6日目で終了した。

韓国では、特に地方において医師不足が深刻となっている。韓国国会立法調査処(所)が2020年に発刊した「OECD主要国の保健医療人材統計及び示唆点」によると、韓国の人口1000人当たりの医師の数は2.3人でOECD加盟国の平均(3.5人)を下回り、加盟国の中でも最低水準だった。

医師不足を解消しようと、韓国政府は今年2月医学部の入学定員を2025年度の入試から2000人増やすと発表した。定員は1998年に3507人に増えたが、2006年に3058人に削減され、以降、毎年度3058人で据え置かれてきている。ユン・ソギョル(尹錫悦)政権は、「国民の健康と命を守るため、医師の拡大はもはや遅らせることのできない時代的課題」とし、定員増の必要性を訴えた。

しかし、医療界はこの方針に反発。医師の全体数は足りており、不足していると言われる原因は外科や産婦人科など、いわゆる「必須診療科」の医師が足りないことにあると指摘した。これら「必須診療科」は激務な上、訴訟のリスクも比較的高いことから敬遠されがちで、収益性の高い皮膚科や眼科、美容整形外科に医師が集中していることが結果的に医師不足を招いていると医療界は主張した。政府の方針が示されるや、医療界は研修医が集団辞職するなどして抗議の意思を示した。これにより、通常の診察や手術に遅れが生じるなど、医療現場は混乱に陥った。

しかし、教育部は5月、大学医学部の来年度の募集人員について、全国39の医学部で前年比1497人増の計4610人とすることを確定した。当初の計画より増員幅を圧縮したが、1998年以来となる定員増を決めた。

政府は定員増員に反発して職場を離脱した研修医に対し、医師免許停止などの行政処分を行ったが、7月に撤回し、現場に戻るよう促した。しかし、復帰した研修医はそれほど多くなく、現場は今も人手不足で混乱が続いている。

医師協会の林会長は先月26日、記者会見を開き、「韓国の医療は死の直前まで来ており、国民の命が脅かされている」と訴えた。林会長は、現場ではこれまで離脱せずに踏みとどまっていた医学部教授たちが「燃え尽き症候群」となり、相次いで辞職していると指摘。医療危機を収拾するには大統領と国会が決断するほかないとして、定員増の撤回を求め、この日からハンストを開始した。

今年5月に医師協会長に就任した林会長は、協会内でも激しく政府と対立してきた人物として知られる。今年3月に会長選に当選した際は、政府の医学部定員増員の方針に端を発した医療現場の混乱について「今の状況は研修医や医大生、医大教授らがつくった危機ではなく、政府がつくった危機だ。事態の責任は政府と与党にある」と批判。翌月に控えた韓国総選挙で、議員の落選運動を行うこともちらつかせた。

一方、尹大統領は先月29日に行った国政に関する記者会見で医療改革に言及し「もう医学部の増員が終わった(決まった)ため、改革の本質である地域・必須医療の再生に政策の力量を集中する。2025年度の医学部の定員募集は現在、滞りなく進んでいる」と強調した。会見内容に、最大野党「共に民主党」のチョ・スンレ首席報道官は「暮らしと医療空白をめぐる国民の不安と苦しみについて、一言の謝罪もなかった」と批判した。

ハンストを続けていた林会長は、6日目の31日に体調を崩し、病院に搬送された。ハンストは、韓国では政治家らがしばしば行うパフォーマンスだ。昨年8~9月にかけては「共に民主党」のイ・ジェミョン(李在明)代表が、福島第一原発の処理水海洋放出に抗議することなどを目的にハンストを行った。しかし、国民から多くの支持を得ることはできなかった。今回の林会長によるハンストについて、韓国メディアのマネートゥデイは「今回の断食は、大きな世論化を形成できず、医療界内では『得るものがなかった』との雰囲気が漂っている」と伝えた。
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