<W解説>韓国最大野党が「独島の日」の国家記念日指定を求めるも、韓国政府が慎重になる理由
<W解説>韓国最大野党が「独島の日」の国家記念日指定を求めるも、韓国政府が慎重になる理由
韓国が領有権を主張する島根県の竹島をめぐり、韓国の民間団体が定めている「独島(竹島の韓国名)の日」を国の記念日に指定しようとする動きが、韓国の最大野党「共に民主党」の一部に見られる。一方、ハン・ドクス首相はこうした動きに「極めて慎重であるべきだ」と述べた。「独島は韓国の領土」との主張は政府、与野党ともに一致しているが、ハン首相が「独島の日」の記念日指定に慎重な姿勢を見せたのはなぜなのか。

韓国側は竹島を「独島」として領有権を主張。島を実効支配し続けている。「独島の日」は島が韓国の領土であることをPRすることなどを目的に、2010年に宣布された。10月25日としたのは1900年のこの日、朝鮮王朝第26代国王コジョン(高宗)が「独島はわが国の領土」と宣言した大韓勅令第41号が制定されたことにちなむ。国家公式の記念日ではないが、毎年この日には国内で関連する様々な催しが開かれている。

一方、日本としては、竹島は歴史的事実や国際法上に照らしても日本固有の領土であるというのが基本的な立場だ。日本の外務省が毎年公表する「外交青書」や、防衛省による「防衛白書」にもその旨記載されているが、韓国側はこれらが公表されるたびに強い反発を見せる。今年7月、防衛省が「2024年版防衛白書」を公表するや、韓国外交部(外務省に相当)は報道官論評を発表。「歴史的、地理的、国際法的に明白なわが固有の領土である独島に対する不当な領有権主張を繰り返したことに強く抗議する」とした。その上で「日本政府の不当な主張は韓国固有の領土である独島に対する我々の主権にいかなる影響も及ぼさないことを改めて明確にする。独島に対する日本のいかなる挑発にも断固として対応していく」とし、日本のこうした主張が「未来志向的な日韓関係の構築に何ら役に立たないことを自覚すべきだ」と求めた。また、外交部のアジア太平洋局長は、在韓日本大使館の総括公使を呼んで抗議した。当時の韓国メディアは「日本が防衛白書で独島の領有権を主張するのは2005年から20年連続だ」と指摘した。

こうした中、韓国の最大野党「共に民主党」は、「独島の日」を国の記念日に指定しようと、法改正案を提出する動きを見せている。「独島の日」をめぐっては2021年にも当時野党だった「国民の力」が国家記念日に指定する法案を2回提出。しかし、当時のムン・ジェイン(文在寅)政権は難色を示した。その理由は、韓国政府は「領土問題は存在しない」との立場だからだ。政府はこの島の領有権争いの存在そのものを認めておらず、島は明らかに韓国の領土であるという立場から、そもそも外交交渉や司法での解決の対象になるものではないとしてきている。「独島の日」を国家記念日に指定すれば、この島が紛争地域であるという誤った認識が広がりかねないとして懸念しているのだ。

しかし、「共に民主党」は現政権で野党に転落し、一転して「独島の日」を国家記念日に指定すべきと主張し始めた。国会にこのほど、「独島の日」を国家記念日に指定するための「独島利用法改正案」を提出した。与党時代の前政権時とは真逆の姿勢をみせているが、韓国紙の朝鮮日報によると、法案を提出した同党議員の一人は「今は状況が変わった」と説明。苦しい弁明をしている。

こうした動きに、ハン・ドクス首相は今月10日、国会の答弁で「極めて慎重であるべきだ」と述べた。その理由はやはり、島を韓国が実効支配しているのにも関わらず、記念日指定すれば、島があたかも紛争地域であるかのように捉えられ、外交的に得策ではないとの考えからだ。ハン首相は「合理的、外交的な哲学を持った人なら、そう考えるだろう。そうでない人は非合理的だ」と述べた。

韓国政府は、島が紛争地域と解釈されないよう神経を尖らせており、昨年末には、韓国軍の将兵向けに配布された教材に「領土紛争地域だ」との記述があったとして、韓国国防部は教材の全回収を発表した。教材には「韓半島(朝鮮半島)周辺では中国、ロシア、日本などの複数の強国が激しく対立している」と前置きした上で、「これらの国は自国の利益のために軍事力を海外に投射したり、釣魚島(日本名・尖閣諸島)、クリール諸島(千島列島)、独島問題など領土紛争も進行中であり、いつでも軍事的衝突が発生する恐れがある」と記されていた。教材中の記述は政府の方針に反するのではないかとの指摘が韓国メディアから上がり、教材は全回収された。

しかし、前述のように、現政権与党の「国民の力」も、野党時代の前政権時には「独島の日」の国家記念日指定を推進してきており、政権与党になってから一転して指定に慎重になった。主張に一貫性がないと言わざるを得ない。
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