2011年の東京電力福島第1原発事故や、原発が集中する韓国南東部での2016年の地震発生を受け、韓国では原発の安全性への不安が高まり、2017年6月、当時のムン・ジェイン(文在寅)大統領は「原発政策を全面的に再検討し、原発中心の発電政策を廃止する」と宣言。当時、韓国は原発が発電量の3割を占める主力電源だったが、文氏は「準備中の新規原発建設計画を全面白紙化し、原発の設計寿命を延長しない。脱原発は逆らえない時代の流れ」と述べた。
文氏の脱原発宣言後、原発業界は危機に直面し、優れた技術力を持つ人材が次々と離れていった。また、原発設計・施工会社は相次いで廃業したほか、大学の原発関連学科の学生数も急減した。文政権の脱原発政策は、炭素中立社会の実現に向けて原発を積極的に活用する国際社会の流れに逆行しているとの批判もあった。
文氏は政権末期の2022年3月、大統領府で開かれた「グローバルエネルギー供給網の懸案点検会議」の席で「原発の世界的な先導技術を確保することが重要だ」などと述べ、一転、これまでの脱原発基調とは異なる見解を示した。突如として見解を転換させたことに、当時、批判が相次いだ。前政権では野党で、現与党の「国民の力」の議員からは「正直に国民の前で脱原発政策の失敗を認め、頼れるのは原発しかないと言え」と非難の声が上がった。
政権が変わり、2022年5月に就任したユン・ソギョル(尹錫悦)大統領は、前政権の「脱原発」政策を転換。現在26基の全国の原発を2038年には30基に増やし、電力に占める原子力の比率を現在の約30%から38年に35.6%に引き上げる方針を示している。今年2月、尹大統領は、原子力産業の中心となる南東部のキョンサンナムド(慶尚南道)・チャンウォン(昌原)市を訪れ、今年を原子力産業の再飛躍の元年とすると強調。原発分野で3兆3000億ウォン(約3547億円)規模の仕事を発注するほか、1兆ウォン規模の金融支援を進める考えを示した。
韓国の原子力安全委員会は今月12日、前政権の方針で建設が中止となっていた新ハヌル原子力発電所3号機と4号機の建設を許可した。同委員会は、原発の構造や設備、60年間の運転後の解体計画の適合性や、国民の健康、環境への安全性を評価したところ、建設に問題がないと判断したとしている。韓国内の原発で建設許可が下りたのは、2016年のシンコリ(新古里)原発5号機、6号機以来、8年ぶり。認可された新ハヌル原発3号機は2032年、4号機は2033年に完成予定だ。
尹大統領は国内で原発推進を積極的に進めているほか、「原発セールス外交」を展開している。今月19日(現地時間)には、チェコを公式訪問し、パベル大統領と原発受注を含む両国の協力強化について議論した。韓国の原発運営会社、韓国水力原子力は今年7月、チェコが推進しているドコバニ原発の2基新規建設事業の優先交渉権を得た。尹大統領はパベル大統領との会談で、「韓国とチェコが共に建てる原発として、両国の経済成長に寄与する互恵的なプロジェクトになる」と強調した。両首脳はチェコの原発の新設に関し、本契約に向けた協力を確認。パベル大統領は「韓国企業の最終契約に楽観的だ」と話した。実現すれば、韓国の原発輸出は2009年のアラブ首長国連邦(UAE)以来となる。韓国としては、世界の原発需要の拡大をにらみ、経済的な効果を狙うとともに、前政権で低迷した原発産業を復活させようとしており、チェコを欧州市場進出の足掛かりとしたい考えだ。韓国政府は2025年春ごろの最終契約を目指している。
一方、チェコの原発建設事業をめぐっては、韓国水力原子力が知的財産権を侵害しているとして、米国の原発大手、ウェスチングハウスがチェコの反独占規制機関に法的対応と陳情を提起し、対立が深まっている。尹大統領はパベル大統領との会談後、共同記者会見で「知的財産権問題について、両国政府は原発での協力に確固たる共感を共有し、韓国政府も韓米企業間の円満な問題の解決を支援している」と強調した。
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