尹氏は3日深夜、大統領室で緊急談話を発表。「(最大野党)『共に民主党』の立法独裁は、大韓民国の憲政秩序を踏みにじり、内乱をたくらむ自明な反国家行為だ」とした上で、「反国家勢力」を撲滅するとして、非常戒厳令を宣布した。尹氏は「非常戒厳令を通じ、亡国の淵に落ちている自由大韓民国を再建し、守っていく。これまで悪事を働いた反国家勢力を必ず撲滅する」と述べた。宣布の目的については「体制転覆を狙う反国家勢力の蠢動(しゅんどう)から国民の自由と安全、国家の持続可能性を保証する」ことなどを挙げた。
尹氏は2022年の大統領選挙で勝利し、同年5月に第20代大統領に就任した。しかし、尹政権の「中間評価」と位置付けられた今年4月の総選挙で、尹政権を支える与党「国民の力」が大敗。また、尹氏は夫人のスキャンダルなどで支持率が20%前後まで落ち込み、2年以上の任期を残す中で、求心力が著しく低下していた。尹氏が今回、戒厳令を突如発令したのは、窮地に追い込まれた自身の権力を維持するために野党勢力を抑え込もうとしたからではないかと指摘されている。
戒厳令の発出は1987年の民主化以降初めて。今回、尹氏が発令した「非常戒厳令」は韓国憲法が定める戒厳令の一種で、戦時や事変などの非常事態で、軍事上、必要となる場合や公共の秩序を維持するために大統領が発令するもの。行政や司法の機能は軍が掌握し、言論・出版・結社の自由を制限することも認められる。
発令後、武装した戒厳軍の兵士がガラスを割って国会議事堂に突入。国会上空には軍のものとみられるヘリコプターも飛んだ。軍事政権時代を連想させる事態に、発令後、国会前には多くの市民が集まり、戒厳に反対するシュプレヒコールを上げたほか、軍の車両を取り囲むなど騒然とした。
国会議員の過半数が戒厳令の解除を求めた場合、大統領は解除しなければならず、今回は、発令直後に国会で190人の議員全員が賛成し、尹氏はわずか6時間で解除した。
混乱は続いており、韓国メディアによると、全閣僚が4日、ハン・ドクス首相に辞意を伝えたほか、大統領室長、首席秘書官らも辞意を表明した。「共に民主党」など野党6党は、戒厳令は「憲法違反」だとして尹氏の弾劾訴追案を国会に提出した。6~7日に採決が行われる見通しだ。国会議員の3分の2にあたる200人以上が賛成すれば可決されるが、野党だけでは可決に届かないため、与党「国民の力」から賛成する議員が出るかが焦点となる。
影響は国内外に広がっており、日本政府は今後の日韓関係への影響を危惧している。両国の関係はかつて、「戦後最悪」と言われるまでに悪化したが、岸田前首相と尹氏との間で改善が進み、昨年3月、日韓首脳が互いに行き来する「シャトル外交」が約12年ぶりに再開、両氏は首脳会談を重ねてきた。今や、政界のみならず、経済界、そして民間同士の交流も活発に行われている。10月に就任した石破首相も両氏が築き上げた友好路線を引き継ぐ方針の下、これまで対韓外交を進めてきており、早くも2回、尹氏と会談している。来年1月上旬にも韓国を訪問し、尹氏と会談を行う方向で調整を進めていると報じられてきたが、韓国での今回の事態を受けて暗礁に乗り上げた。朝日新聞は、「この状況だと厳しい。そもそも1カ月先に尹政権があるのかも分からない」と話す首相側近の声を伝えた。今月中旬に予定されていた、日韓議員連盟の会長を務める、自民党の菅義偉副総裁の訪韓は既に中止になった。菅氏は15~16日の日程で、議連の幹部らと訪韓し、韓国側の議員らとの面会や尹氏との会談を行う方向で調整がしていた。
橘慶一郎官房副長官は4日の定例会見で、今後の日韓関係に与える影響を記者から問われ。「日韓は重要な隣国同士。日韓関係全体の取り組みは情勢を注視しつつ適切に判断していく」と述べた。産経新聞は「尹氏の対日政策を『親日屈辱外交』と批判してきた野党側が政権を奪取する事態になれば、日韓関係に再び『冬の時代』が訪れる」と指摘。日韓は来年、国交正常化60年の節目を迎えるが、今後の状況によっては、日韓関係が急速に悪化するリスクもはらんでいる。
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