尹氏は3日深夜、大統領室で緊急談話を発表。「(最大野党)『共に民主党』の立法独裁は、大韓民国の憲政秩序を踏みにじり、内乱をたくらむ自明な反国家行為だ」とした上で、「反国家勢力」を撲滅するとして、非常戒厳令を宣布した。尹氏は「非常戒厳令を通じ、亡国の淵に落ちている自由大韓民国を再建し、守っていく。これまで悪事を働いた反国家勢力を必ず撲滅する」と述べた。宣布の目的については「体制転覆を狙う反国家勢力の蠢動(しゅんどう)から国民の自由と安全、国家の持続可能性を保証する」ことなどを挙げた。
戒厳令の発出は1987年の民主化以降初めて。今回、尹氏が発令した「非常戒厳令」は韓国憲法が定める戒厳令の一種で、戦時や事変などの非常事態で、軍事上、必要となる場合や公共の秩序を維持するために大統領が発令するもの。行政や司法の機能は軍が掌握し、言論・出版・結社の自由を制限することも認められる。
発令後、武装した戒厳軍の兵士がガラスを割って国会議事堂に突入。国会上空には軍のものとみられるヘリコプターも飛んだ。軍事政権時代を連想させる事態に、発令後、国会前には多くの市民が集まり、戒厳に反対するシュプレヒコールを上げたほか、軍の車両を取り囲むなど騒然とした。
国会議員の過半数が戒厳令の解除を求めた場合、大統領は解除しなければならない。発令直後、国会で本会議が開かれ、出席した議員全員が賛成した。尹氏はわずか6時間で解除した。
最大野党「共に民主党」や祖国革新党などは尹氏を告発。「共に民主党」のイ・ジェミョン(李在明)代表は6日、国会で特別声明を発表し、一時、「非常戒厳」を宣布した尹氏について「民主主義の憲政秩序を私的な利益と権力強化・維持のため乱用した明白な国家内乱罪の首謀者だ」と批判。非常戒厳の宣布は「大統領自身が権力を維持、拡大するため行った反乱であり、内乱行為、そして親衛クーデターだ」と指摘した。
韓国の刑法87条は、国家権力を排除したり、国憲を乱したりする目的で暴動を起こした場合は内乱罪で処罰すると規定する。最高刑は死刑。また、韓国の憲法84条は「大統領は、内乱または外患の罪を起こした場合を除き、在職中に刑事上の訴追を受けない」と規定しており、現職大統領には不逮捕特権があるものの、内乱罪は例外のため、尹氏を逮捕・起訴することは可能だ。
野党の告発を受けて、警察庁のウ・ジョンス国家捜査本部長は専門捜査チームを編成し、捜査に着手した。また、韓国検察は、ソウル高検検事長をトップとする特別捜査本部を立ち上げた。
一方、与党「国民の力」の議員からは、尹氏は内乱罪には当たらないとの声も上がっている。カン・ソンヨン議員は「これ(戒厳)が内乱罪に該当するほど完全に国会を遮断し、国会議員による非常戒厳の解除手続きを妨げようとする意図があったとは感じられない」と指摘。「現時点で、内乱と断定するのは無理だ」と主張した。
法曹界からは内乱罪に当たるとの指摘が相次いでおり、大韓弁護士協会の会長は、韓国メディアに対し「(尹氏が)内乱罪を完全に否認するのは難しい。捜査は不可避だろう」と語った。元徴用工訴訟の原告側代理人としてもその名が知られている、イム・ジェソン弁護士は、韓国紙ハンギョレへの寄稿で、尹氏が内乱罪に当たる理由を3つ列挙した上で、「捜査機関は、速やかに大統領と内乱勢力に対する強制捜査と令状の請求を準備しなければならない」と訴えた。
一方、韓国警察は10日、内乱容疑などで金龍顕前国防部長官を逮捕した。今月3日の「非常戒厳」をめぐり、逮捕者が出るのは初めて。金氏は8日にソウル中央地検に出頭した後、拘束されていた。聯合ニュースは「金氏の身柄を確保したことで、検察の捜査は尹大統領に向かう見通しだ」と伝えている。
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