<W解説>韓国・尹大統領の職務停止受け、代行を務めることになったハン・ドクス首相とは?
<W解説>韓国・尹大統領の職務停止受け、代行を務めることになったハン・ドクス首相とは?
今月14日、韓国のユン・ソギョル(尹錫悦)大統領への弾劾訴追案が韓国国会で可決し、尹氏が職務停止となったことを受けて、ハン・ドクス首相が同日、大統領代行に就任した。ハン氏は「国政への空白がないよう万全を期す」と表明。混乱収拾の前面に立つことになったハン氏とはどのような人物なのか。

尹氏は3日深夜、「非常戒厳」を宣言した。韓国憲法が定める戒厳令の一種で、戦時や事変などの非常事態で、軍事上、必要となる場合や公共の秩序を維持するために大統領が発令するもの。行政や司法の機能は軍が掌握し、言論・出版・結社の自由を制限することも認められる。戒厳令の発出は1987年の民主化以降初めてのことだった。

発出を受け、武装した戒厳軍の兵士がガラスを割って国会議事堂に突入した。軍事政権時代を連想させる事態に、国会前には多くの市民が集まり、戒厳に反対するシュプレヒコールを上げたほか、軍の車両を取り囲むなど騒然とした。

だが、戒厳令は国会議員の過半数が解除を求めた場合、大統領はこれに応じなければならず、発令直後、国会で本会議が開かれ、出席した190人の議員全員が解除に賛成。尹氏はわずか6時間で非常戒厳を解いた。

「共に民主党」など野党は、尹氏が「憲法秩序の中断を図り、永続的な権力の奪取を企てる内乱未遂を犯した」などとして憲法違反を指摘し、尹氏の弾劾訴追案を国会に提出した。14日に採決が行われ、賛成204票、反対85票で同案は可決した。これにより、尹氏の大統領としての権限は停止し、ハン氏が大統領職を代行することとなった。憲法86条で、韓国の首相は「大統領を補佐し、行政に関して大統領の命を受け、行政各部を統括する」と定められている。「大統領が空席になったり、事故によって職務を遂行できなくなったりした」場合に権限を代行するとの規定もある。

混乱収拾の前面に立つこととなったハン氏は南西部チョンジュ(全州)市出身の75歳。ソウル大学経済学部卒業、米ハーバード大大学院経済学博士課程修了。特許庁、通商産業部(現・産業通商支援部、部は省に相当)で職務に当たり、同部では次官を務めた。その後、キム・デジュン(金大中)政権で外交通商部(現・外交部)通商交渉本部長、ノ・ムヒョン(盧武鉉)政権では経済副首相と首相を務め、韓米FTA(自由貿易協定)交渉を主導した。イ・ミョンバク(李明博)政権時には2009年2月から3年間、駐米韓国大使を務めた。進歩・保守政権で重責を担った人物だ。2022年5月の尹政権発足直後に、自身2度目となる首相に就任。新型コロナ対策や、2022年10月にソウルの繁華街のイテウォン(梨泰院)で起きた雑踏事故などの非常事態では陣頭指揮を取り、堅実な仕事ぶりが評価されている。4月に行われた総選挙で与党「国民の力」が大敗した際は、引責辞任することを表明したが、現在まで首相として尹氏を支えている。

大統領代行に就任したハン氏は14日、「もっぱら国政を安定的に運営することに、全ての力と努力を尽くす」と述べた。とりわけ、経済分野では金融・為替市場の円滑化、対外分野では米韓、日米韓などとの信頼維持に全力を注ぐ考えを明らかにした。そのハン氏は19日、石破茂首相と約20分間にわたって電話会談し、両国の緊密な連携を再確認した。23日には韓国の経済6団体の代表と昼食会を開き、「韓国の未来のための政策決定がなされるよう、政策の一貫性・整合性を引き続き守ることが代行体制の根本だ」と強調した。

1日も早い国政の安定に向け奔走しているハン氏に対し、最大野党「共に民主党」は尹氏の戒厳令の宣言に絡む内乱事件をなどについて、特別検察官による捜査を求めており、それを可能とする法案を公布しなければ責任を問うとし、ハン氏への弾劾をちらつかせて圧力を強めている。これに対し、与党「国民の力」のクォン・ソンドン院内代表は「弾劾という刀を、(ハン氏の)首に突きつけ、望み通りにしなければ刺すという『弾劾人質劇』だ」と反発している。ハン氏のいばらの道は今後も続きそうだ。
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