尹氏が非常戒厳を宣言したのは先月3日深夜のことだった。非常戒厳は韓国憲法が定める戒厳令の一種。戦時や事変などの非常事態で、軍事上、必要となる場合や公共の秩序を維持するために大統領が発令するもの。行政や司法の機能は軍が掌握し、言論・出版・結社の自由を制限することも認められる。戒厳令の発出は1987年の民主化以降初めてのことだった。
宣言を受け、武装した戒厳軍の兵士がガラスを割って国会議事堂に突入。軍事政権時代を連想させる事態に、国会前には多くの市民が集まり、戒厳に反対するシュプレヒコールを上げたほか、軍の車両を取り囲むなど騒然とした。
だが、戒厳令は国会議員の過半数が解除を求めた場合、大統領はこれに応じなければならず、発令直後、国会で本会議が開かれ、出席議員の全員が解除に賛成。尹氏はわずか6時間で非常戒厳を解いた。
しかし、非常戒厳の宣言による政治的、社会的混乱は大きく、野党は尹氏には内乱の疑いがあるとして告発。韓国の刑法87条は、国家権力を排除したり、国憲を乱したりする目的で暴動を起こした場合は内乱罪で処罰すると規定する。最高刑は死刑。韓国の憲法84条は「大統領は、内乱または外患の罪を起こした場合を除き、在職中に刑事上の訴追を受けない」と規定しており、現職大統領には不逮捕特権があるものの、内乱罪は例外のため、尹氏を逮捕・起訴することは可能だ。これまで、公捜庁などでつくる合同捜査本部が捜査を進めてきた。
今月3日、合同捜査本部は尹氏に対する拘束令状を執行するため大統領公邸に入った。しかし、建物前で大統領警護庁がこれを阻み、にらみ合いが5時間以上続いた末、結局、捜査本部は安全上の懸念があると判断し、この日の執行を断念した。
大統領の拘束令状の執行を改めて試みるため、15日早朝、合同捜査本部の捜査員らが大統領公邸の敷地に入った。公邸には捜査官や機動隊など約5000人が投入されたという。公捜庁は同日午前10時33分に、尹氏に対する拘束令状を執行した。
身柄拘束に先立ち、大統領公邸前には尹氏の支持者と、尹氏の拘束賛成派の人たちの双方が集結。尹氏の支持者は「大統領を守る」などと気勢を上げた。一方、尹氏の拘束を望む人たちは、拘束の報が伝わると、歓喜に沸いた。
また、尹氏は拘束前、映像メッセージを公開。「残念ながら、この国の法は全て崩れてしまった。審査権のない裁判所から捜査権のない期間に発付された、無効な拘束令状によって手続きが強圧的に進められている。嘆かわしく思わざるを得ない」などとした上で、「流血の事態を防ぐため、不法捜査だが、公捜庁の出頭要請に応じることにした」と述べた。
午前10時半過ぎ、尹氏を乗せたとみられる車が公邸の正門前を出発。約20分後に公捜庁の庁舎に到着した。
庁舎では早速、尹氏の取り調べが行われ、公捜庁ナンバー2のイ・ジェスン次長が担当した。韓国の通信社・聯合ニュースは「現職大統領の事件という事案の重大性を考慮し、次長が直接取り調べに臨んだとみられる」と伝えた。公捜庁は尹氏の取り調べのために200ページを超える質問書を用意。しかし、尹氏は取り調べで供述を拒否しているとされる。また、取調室には録画設備があるが、尹氏は録画についても拒否したため行われていないという。
刑事訴訟法上、拘束令状が執行されると、48時間以内に逮捕状を請求するか釈放しなければならない。裁判所は検事側と尹氏側の意見を聴く「令状審査」を経て、令状発付の可否を決定する。
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