<W解説>韓国機事故、衝突4分前からフライトレコーダー停止で原因究明が難航する懸念
<W解説>韓国機事故、衝突4分前からフライトレコーダー停止で原因究明が難航する懸念
韓国南西部のムアン(務安)空港で乗客乗員179人が死亡した旅客機事故で、航空機に搭載されていたブラックボックスに、壁衝突前の約4分間の記録が保存されていなかったことがわかった。韓国メディアは「事故原因の究明が難しくなるのではないかとの懸念が高まっている」(東亜日報)などと報じている。

乗客・乗員181人が乗ったバンコク発のチェジュ(済州)航空の旅客機は、先月29日午前8時半ごろ、務安国際空港に接近。管制塔が着陸許可を出した後、旅客機のパイロットはバードストライク(鳥の衝突)が起きたと伝えた。機体は救助を求める遭難信号を出し、1度目の着陸は「ゴーアラウンド(やり直し)」となった。何らかの原因で車輪が正常に作動せず、2度目に胴体着陸を試みた後、機体は滑走路を離脱して外壁に衝突し、炎上した。

この事故で、乗員・乗客179人が死亡。韓国で発生した旅客機事故としては最大の被害、また、韓国機の事故としては、1997年に229人が死亡した大韓航空グアム墜落事故以来の人命被害が発生した。現場の状況について、韓国紙の朝鮮日報は「文字通り修羅場だった。空港の外壁に衝突した旅客機は胴体後部と尾翼の一部だけ何とか形が分かるほどしか残っていなかった。真っ二つに割れた機体の全部は完全にバラバラの状態だった。遺体の回収作業を行っている救助隊員らが『これほど残酷な現場は生まれて初めて見た』と口々に語るほどだ」と伝えた。

年末に起きた大惨事に悲しみが広がり、追悼ムードに包まれる中で新年がスタートした。企業や自治体は年末年始のイベントを自粛して哀悼の意を示した。韓国政府は今月4日まで「国家哀悼期間」に指定。全国各地に犠牲者を悼むための焼香所が設けられ、弔問に訪れる市民たちの列が続いた。

今回の事故の原因としては、「バードストライク」や「ランディングギア(降着装置)の誤作動」などが指摘されている。国土交通部(部は省に相当)は今月7日の記者会見で、「エンジンに入り込んだ土を除去する過程で羽毛の一部を発見した」と明らかにした。航空・鉄道事故調査委員会のイ・スンヨル事故調査団長は、バードストライクが片方のエンジンで確実に発生したとみられるが、両方のエンジンで同時に発生したかなどについては調査結果を待つ必要があると説明した。

また、今回の事故では、機体が滑走路先に設置されたコンクリート製の構造物に衝突したことが被害を増大させた要因との指摘がある。この構造物は旅客機を滑走路に誘導するアンテナの一種、ローカライザーを支えるために設置されていた。

韓国メディアによると、航空宇宙を専門に扱う英国の週刊誌「フライト・インターナショナル」編集者のデイビッド・リアマウント氏は先月30日、英スカイニュースの取材に応じ、「航空機が壁に激突していなければ乗客は助かった可能性が高い」との見方を示した。その上で「激突していなければ、柵を突き破って道路を通り過ぎ、隣接する空き地で停まっていたはずだ。航空機がスピードを落として停止するのに必要な空間は十分にあった。柵を突き破る際に多少の被害は出ただろうが、それでも乗客は助かっただろう」と指摘した。

コンクリート製の構造物は滑走路の端から約200~300メートル離れた場所にあったが、国土交通部はこの位置の設置に法的に問題はないとの認識を示しており、今月7日の会見でもそうした立場を改めて示した。

一方、国土交通部の鉄道事故調査委員会が事故原因の調査を進めている中、同委員会は11日、ブラックボックス(フライトレコーダーとコックピットボイスレコーダー)の記録が、機体が衝突して炎上する約4分前から途絶えていたことを明らかにした。ボイスレコーダーは機長と副機長ら操縦室の乗員間の対話のほか、管制官と乗員の交信内容、航空機作動状態の音及び警告音などを記録する装置。フライトレコーダーは航空機の3次元的な飛行ルートと各装置の単位別作動状態をデジタル、磁気または数値信号で記録するもの。衝突前の最後の4分間の記録は、事故原因を解明するための重要な手掛かりになると期待されていた。ボイスレコーダーは当初、韓国で分析が行われたが、データが欠落していることが明らかになり、米国家運輸安全委員会の分析機関に依頼していた。

韓国紙の朝鮮日報は、「ブラックボックスは航空機が完全に破壊されても形が保たれる装置だが、事故前の数分間の状況が記録されないのは非常に異例」と指摘。航空機のエンジンが2基とも損傷し、電気系統に深刻な問題が発生したため、ブラックボックスへの情報送信機能もマヒしたのではないかと推察する専門家の見解を伝えた。

国土交通部の事故調査委はデータが保存されていない原因を調べるとともに、「正確な事故原因を究明するために最善を尽くす」としている。
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