<W解説>自らの「非常戒厳」の宣言から47日で逮捕された韓国・尹大統領=今後の見通しは?
<W解説>自らの「非常戒厳」の宣言から47日で逮捕された韓国・尹大統領=今後の見通しは?
韓国のユン・ソギョル(尹錫悦)大統領が19日未明、内乱を首謀した疑いなどで逮捕された。韓国において、現職大統領の逮捕は初めて。尹氏は15日に身柄を拘束されていたが、逮捕により、合同捜査本部は最長20日間、尹氏を拘束して取り調べを行えるようになった。

尹氏は先月3日深夜、「非常戒厳」を宣言。非常戒厳は韓国憲法が定める戒厳令の一種。戦時や事変などの非常事態で、軍事上、必要となる場合や公共の秩序を維持するために大統領が発令するものだ。戒厳令の発出は1987年の民主化以降初めてのことだった。

宣言を受け、武装した戒厳軍の兵士がガラスを割って国会議事堂に突入。軍事政権時代を連想させる事態に、国会前には多くの市民が集まり、戒厳に反対するシュプレヒコールを上げたほか、軍の車両を取り囲むなど騒然とした。

だが、戒厳令は国会議員の過半数が解除を求めた場合、大統領はこれに応じなければならず、発令直後、国会で本会議が開かれ、出席議員の全員が解除に賛成。尹氏はわずか6時間で非常戒厳を解いた。

「共に民主党」など野党は、尹氏が「憲法秩序の中断を図り、永続的な権力の奪取を企てる内乱未遂を犯した」などとして憲法違反を指摘し、尹氏の弾劾訴追案を国会に提出した。先月14日に採決が行われ、賛成204票、反対85票で同案は可決した。これを受け、尹氏は職務停止となり、現在、チェ・サンモク経済副首相兼企画財政部長官が大統領の権限を代行している。

また、非常戒厳の宣言による政治的、社会的混乱は大きく、野党は尹氏に内乱の疑いがあるとして告発した。韓国の刑法87条は、国家権力を排除したり、国憲を乱したりする目的で暴動を起こした場合は内乱罪で処罰すると規定する。最高刑は死刑。韓国の憲法84条は「大統領は、内乱または外患の罪を起こした場合を除き、在職中に刑事上の訴追を受けない」と規定しており、現職大統領には不逮捕特権があるものの、内乱罪は例外のため、尹氏を逮捕・起訴することは可能だ。これまで、独立捜査機関「高位公職者犯罪捜査庁(公捜庁)」と警察の合同捜査本部が捜査を進め、同本部は今月15日、尹氏の身柄を拘束した。

尹氏は拘束後の取り調べを拒否し続けた。一方、公捜庁は17日、ソウル西部地裁に逮捕状を請求した。18日には、逮捕状をめぐり裁判所で審査が行われ、尹氏は自ら裁判所に出向き、主張をした。尹氏の弁護士が「法廷に直接出席し、堂々と対応した方がいい」と尹氏に提案したところ、本人がこれを受け入れたという。

審査を経てソウル西部地裁は19日午前2時50分頃、尹氏の逮捕状を発付。尹氏は逮捕された。同地裁は発付理由について、「証拠隠滅の恐れがある」と説明した。韓国の通信社・聯合ニュースは「逮捕状を請求した公捜庁の主張通り、尹大統領が非常戒厳と前後して携帯電話を替えるとともに、通信アプリ『テレグラム』を退会したことなどから、証拠隠滅の懸念があると判断したようだ」と解説した。

尹氏が逮捕されたことについて、与党「国民の力」は首席報道官の論評を発表。逮捕状の発付について、「現職大統領の逮捕に伴う影響を十分に考慮したのか疑問だ」とし、「(逮捕状を発付した)裁判所の判断が非常に残念だ」と述べた。

一方、最大野党「共に民主党」は「内乱を首謀した尹錫悦に対する逮捕状発付は崩れた憲制秩序を正す礎だ」と評価。同党の報道官は「全国民がリアルタイムで目撃した内乱犯罪の主導者にふさわしい常識的な判断」とした。

一方、逮捕された尹氏は弁護団を通じて「少し不便ではありますが、私は拘置所で元気です」などと国民に向けたメッセージを出した。また、尹氏は非常戒厳と後続措置をめぐり、「憲法秩序を乱す目的で暴動を起こした」として、公捜庁が刑法上の内乱罪を適用したことに、法律家として理解しがたいと批判した。尹氏は検事出身で、かつて検事総長も歴任した。

尹氏は先月3日に非常戒厳を宣言してから47日で逮捕されることとなった。聯合ニュースは、今後の見通しについて、「2月に起訴・8月に一審判決」と予測した。尹氏は逮捕されたため、合同捜査本部は最長20日間、尹氏を拘束して取り調べを行うことが可能だ。尹氏について聯合は、約20日間の取り調べを受けてから来月初めに起訴されると予想。起訴されれば被告人を最大6か月拘束できることなどから、8月初めに一審判決が出ると見通した。さらに聯合は「裁判で内乱を首謀した罪に対し有罪が認められれば、尹大統領は無期懲役か死刑を言い渡される可能性がある」と予測。一方、「減刑の理由があれば、有期懲役刑か有期禁錮刑になることもあり得る」とした。
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