岩屋氏が訪韓したのは、昨年10月の就任以降、初めてのこと。日本の外相の訪韓としては2023年11月以来、約1年2か月ぶり。会談に先立ち、岩屋氏は国立ソウル顕忠院を訪れた。顕忠院は日本統治時代の独立運動家らが祀られている。約44万坪の敷地に、墓域が国家元首、愛国志士、国家有功者、軍人・軍務院、警察官、一般人、外国人の7つのエリアに分かれて造成されている。日本の外相による顕忠院の参拝は、2018年の河野太郎外相(当時)以来、約7年ぶり。岩屋氏は顕忠塔の前で黙とう、焼香をした後に献花した。岩屋氏の今回の参拝について、韓国の公共放送KBSは、「韓国国内の政治状況が不安定な中でも、韓日関係を強化する意思を示したものと評価されている」と伝えた。
韓国では先月3日深夜、尹錫悦大統領が「非常戒厳」を宣言。非常戒厳は韓国憲法が定める戒厳令の一種。戦時や事変などの非常事態で、軍事上、必要となる場合や公共の秩序を維持するために大統領が発令するものだ。戒厳令の発出は1987年の民主化以降初めてのことだった。
宣言を受け、武装した戒厳軍の兵士がガラスを割って国会議事堂に突入。軍事政権時代を連想させる事態に、国会前には多くの市民が集まり、戒厳に反対するシュプレヒコールを上げたほか、軍の車両を取り囲むなど騒然とした。だが、戒厳令は国会議員の過半数が解除を求めた場合、大統領はこれに応じなければならず、発令直後、国会で本会議が開かれ、出席議員の全員が解除に賛成。尹氏はわずか6時間で非常戒厳を解いた。
「共に民主党」など野党は、尹氏が「憲法秩序の中断を図り、永続的な権力の奪取を企てる内乱未遂を犯した」などとして憲法違反を指摘し、尹氏の弾劾訴追案を国会に提出した。先月14日に採決が行われ、賛成204票、反対85票で同案は可決した。これを受け、尹氏は職務停止となり、現在、チェ・サンモク経済副首相兼企画財政部長官が大統領の権限を代行している。
非常戒厳の宣言による政治的、社会的混乱は大きく、野党は尹氏には内乱の疑いがあるとして告発。独立捜査機関「高位公職者犯罪捜査庁(公捜庁)」と警察の合同捜査本部が捜査を進め、同本部は15日、尹氏の身柄を拘束。19日には裁判所が逮捕状を発付し、尹氏は韓国の現職大統領として憲政史上初めて逮捕された。
岩屋、チョ両外相による会談は約1時間半にわたって行われた。これまでの日韓の関係改善の流れを維持・強化していくことで一致した。今年は国交正常化60年となることを踏まえ、国民同士、とりわけ日韓関係の未来を担う若者の交流をさらに後押ししていくことを確認した。また、第2次トランプ米政権の発足に当たり、日米韓3か国で引き続き連携していくことも確認。北朝鮮が核・ミサイル開発を加速させ、ロシアとの軍事協力を強化していることには「深刻な懸念」を共有し、日韓、日米韓で緊密に連携して対処していくことで合意した。
会談後の共同記者会見で岩屋氏は「日韓関係の重要性は変わらないどころか増してきている。日韓関係の改善の基調を維持・発展させるべく、引き続き、外相間でも緊密に意思疎通をしていきたい」と述べた。
チョ氏は「われわれはいかなる状況においても韓日関係を揺るぎなく発展させていく。大変な時の友人が本当の友人だ、という言葉を行動で見せてくれた岩屋大臣に感謝する」と述べた。
岩屋氏は現在、大統領の職務を代行するチェ・サンモク副首相兼企画財政相とも約30分にわたって会談した。チェ氏は岩屋氏に韓国の内政状況を説明。「憲法と法律のもとで、安定的に政策を実施していくよう努めている」と述べた。
韓国内が政治的に混乱している中で今回の会談が実現したことを受け、韓国メディアのハンギョレは「韓日外相は『いかなる状況においても韓日関係を揺るぎなく発展させていく』というメッセージを発信した」とし、「(韓国)政府は国内政治の混乱の中でも韓国外交が作動しているというシグナルを強調している」と伝えた。
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