尹氏が「非常戒厳」を宣言したのは先月3日深夜のことだった。非常戒厳は韓国憲法が定める戒厳令の一種。戦時や事変などの非常事態で、軍事上、必要となる場合や公共の秩序を維持するために大統領が発令するものだ。戒厳令の発出は1987年の民主化以降初めてのことだった。
だが、戒厳令は国会議員の過半数が解除を求めた場合、大統領はこれに応じなければならず、発令直後、国会で本会議が開かれ、出席議員の全員が解除に賛成。尹氏はわずか6時間で非常戒厳を解いた。
「共に民主党」など野党は、尹氏が「憲法秩序の中断を図り、永続的な権力の奪取を企てる内乱未遂を犯した」などとして憲法違反を指摘し、尹氏の弾劾訴追案を国会に提出した。先月14日に採決が行われ、賛成204票、反対85票で同案は可決した。これを受け、尹氏は職務停止となり、現在、チェ・サンモク経済副首相兼企画財政部長官が大統領の権限を代行している。
また、非常戒厳の宣言による政治的、社会的混乱は大きく、野党は尹氏に内乱の疑いがあるとして告発。独立捜査機関「高位公職者犯罪捜査庁(公捜庁)」と警察の合同捜査本部が捜査を進め、同本部は今月15日、尹氏の身柄を拘束した。韓国の現職大統領の拘束は憲政史上初めてのことだった。さらに捜査本部は17日、裁判所に尹氏の逮捕状を請求した。裁判所はこれを認め、尹氏は19日未明、内乱を首謀した疑いなどで逮捕された。
尹氏による「非常戒厳」の宣言の後、世論調査会社の韓国ギャラップによる世論調査で、与党「国民の力」の支持率は先月後半には最大野党「共に民主党」の半分にまで下落した。しかし、前述のように、同社が今月14~16日に全国の18歳以上の1001人を対象に行った調査では「国民の力」の支持率が「共に民主党」を上回る結果に。同社は「『非常戒厳』宣言前の構図に戻った」と分析している。
また、エンブレイン・パブリック、ケースタット・リサーチ、コリア・リサーチ、韓国リサーチの4社による共同世論調査でも、今月第3週は「国民の力」の支持率が35%となり、「共に民主党」の33%を上回った。4社による調査で与野党の支持率が逆転するのは3か月ぶり。調査は今月13~15日、全国の1005人を対象に電話面接方式により行った。
さらに、世論調査会社のリアルメーターが16~17日に実施した調査では、「国民の力」の支持率は46.5%、「共に民主党」は39%だった。韓国紙の朝鮮日報は「両党の支持率の差は先週は1.4ポイントで誤差範囲内だったが、今回の調査では誤差範囲外の7.5ポイントまで広がった」と伝えた。
憲法裁判所では尹氏の弾劾審判が進んでおり、早期の大統領選挙の可能性も現実味を帯びる中、野党の「共に民主党」が勢いを加速しそうな状況での意外とも言えるこうした調査結果に、韓国紙のハンギョレは「政権喪失の危機感を感じた保守層が素早く結集した結果だ」と指摘した。また、「内乱と弾劾政局に失望した世論を野党がきちんと吸収できなかった結果との見方もある」とも伝えた。
尹氏による「非常戒厳」の宣言以降、「共に民主党」は尹氏だけでなく、ハン・ドクス首相まで弾劾訴追するなど、政権を強引とも言える手法で追い詰めており、こうしたことへの世論の反発も影響したとみられている。ハンギョレによると、韓国人研究院のチョン・ハヌル院長は同紙の取材に、「大統領弾劾案の可決後、政局運営で焦りと未熟さを露呈した民主党に送る警告サインとも読み取れる」と話した。
Copyrights(C)wowkorea.jp 5