<W解説>最終陳述で韓国・尹大統領が主張したこと=弾劾審判が結審
<W解説>最終陳述で韓国・尹大統領が主張したこと=弾劾審判が結審
昨年12月に「非常戒厳」を宣言した韓国のユン・ソギョル(尹錫悦)大統領の罷免(ひめん)の是非を判断する弾劾審判の最終弁論が25日、韓国の憲法裁判所で行われた。尹氏は最終意見陳述を行い、「非常戒厳」の宣言に至った経緯を改めて説明。韓国が「亡国的な危機状況」にあったとし、「非常戒厳」の宣言について「国家危機を克服するための大統領の合法的な権限行使だ」として正当化した。国民に対しては謝罪を繰り返し、自身については職場復帰に意欲を示した。弾劾審判の弁論はこの日を含め計11回行われた。審理は今回で終了し、今後、憲法裁が尹氏の罷免の是非を判断する。過去の弾劾審判では結審から約2週間で決定が言い渡されていることから、韓国メディアの多くは、今回は来月中旬頃に下されるとの見方を伝えている。

尹氏は昨年12月、「非常戒厳」を宣言した。非常戒厳は韓国憲法が定める戒厳令の一種。戦時や事変などの非常事態で、軍事上、必要となる場合や公共の秩序を維持するために大統領が発令するものだ。行政や司法の機能は軍が掌握し、言論・出版・結社の自由を制限することも認められる。戒厳令の発出は1987年の民主化以降、初めてのことだった。

宣言を受け、武装した戒厳軍の兵士がガラスを割って国会議事堂に突入。軍事政権時代を連想させる事態に、国会前には多くの市民が集まり、戒厳に反対するシュプレヒコールを上げたほか、軍の車両を取り囲むなど騒然とした。

だが、戒厳令は国会議員の過半数が解除を求めた場合、大統領はこれに応じなければならず、発令直後、国会で本会議が開かれ、出席議員の全員が解除に賛成。尹氏はわずか6時間で非常戒厳を解いた。

尹氏が突如宣言した「非常戒厳」は早期に解かれたものの、韓国社会に混乱をきたし、現在も不安定な政治状況が続いている。「共に民主党」など野党は、尹氏が「憲法秩序の中断を図り、永続的な権力の奪取を企てる内乱未遂を犯した」などとして憲法違反を指摘し、尹氏の弾劾訴追案を国会に提出した。昨年12月、採決が行われ、賛成204票、反対85票で同案は可決した。これを受け、尹氏は職務停止となり、現在、チェ・サンモク経済副首相兼企画財政部長官が大統領の権限を代行している。

同案の可決を受け、憲法裁が6か月以内に尹氏を罷免するか、復職させるかを決めることになった。罷免となった場合は、60日以内に大統領選挙が行われる。

憲法裁では先月から弁論が行われてきた。これまでの弾劾審判では、戒厳令の正当性が争点となり、国会訴追団側は、「非常戒厳」の宣言が、憲法77条が規定する「戦時・事変またはこれに準ずる国家非常事態」との要件を満たさず出されたことや、戒厳時に国会へ軍を動員し政治家らを逮捕しようとしたことなどが憲法違反だと主張した。一方、尹氏は審判に自ら出席し、「非常戒厳」の宣言は統治行為だったとして正当性を訴えてきた。

憲法裁では25日、尹氏も出廷して最終弁論が開かれた。韓国ではこれまで、ノ・ムヒョン(盧武鉉)、パク・クネ(朴槿恵)両元大統領が弾劾訴追されたが、大統領本人が出廷し、最終意見陳述を行うのは初めて。尹氏は「非常戒厳」を出した目的について「亡国的な危機的状況を知らせ、憲法制定権力である主権者が出てくるよう訴えることだった」とし、その上で「目的を相当部分達成したと考えている」と述べた。

尹氏は職場復帰にも意欲を見せ、復帰すれば「任期後半は未来世代のために政治改革の推進に集中する」と強調。これまで日米との協力を主導してきたことから、対外政策に注力し、国内問題に関しては首相に権限の多くを譲る考えを示した。

国民に対しては、「国家と国民のための戒厳だったが、その過程で国民の皆さんに混乱と不便を与えたことを申し訳なく思う」などと謝罪した。

一方、弾劾訴追した国会側を代表して出廷し、最終意見陳述を行った野党議員は「尹大統領は憲法を破壊し、国会を蹂躙(じゅうりん)しようとした。民主主義と国家の発展のために罷免しなければならない」と主張した。

尹氏の弾劾審判はこの日結審し、尹氏の罷免の是非は憲法裁の判断に委ねられる。尹氏が罷免された場合は、60日以内に大統領選挙が行われる。一部韓国メディアによると、早くも政界では尹氏が罷免されることを想定し、与野党とも大統領選をにらんだ駆け引きを繰り広げているという。
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