尹氏が「非常戒厳」を宣言したのは昨年12月3日深夜のことだった。非常戒厳は韓国憲法が定める戒厳令の一種。戦時や事変などの非常事態で、軍事上、必要となる場合や公共の秩序を維持するために大統領が発令するものだ。戒厳令の発出は1987年の民主化以降初めてのことだった。
だが、戒厳令は国会議員の過半数が解除を求めた場合、大統領はこれに応じなければならず、発令直後、国会で本会議が開かれ、出席議員の全員が解除に賛成。尹氏はわずか6時間で非常戒厳を解いた。
「共に民主党」など野党は、尹氏が「憲法秩序の中断を図り、永続的な権力の奪取を企てる内乱未遂を犯した」などとして憲法違反を指摘し、尹氏の弾劾訴追案を国会に提出した。先月14日に採決が行われ、賛成204票、反対85票で同案は可決した。これを受け、尹氏は職務停止となり、現在、チェ・サンモク経済副首相兼企画財政部長官が大統領の権限を代行している。
また、非常戒厳の宣言による政治的、社会的混乱は大きく、野党は尹氏に内乱の疑いがあるとして告発。公捜庁と警察の合同捜査本部が捜査を進め、同本部は1月15日、尹氏の身柄を拘束。韓国の現職大統領の拘束は憲政史上初めてのことだった。さらに捜査本部は同月19日未明、内乱を首謀した疑いなどで尹氏を逮捕した。検察は同26日に起訴したが、弁護側はその時点では身柄を拘束できる期間を過ぎており、違法だと主張した。勾留期限をめぐっては、逮捕状審査で捜査当局の資料が裁判所に預けられている間は勾留期間に参入しないとの法規定がある。検察はこの期間を日付単位で計算したが、ソウル中央地裁は、時間単位で計算するのが妥当と判断。今月7日、尹氏の弁護側による勾留取り消し請求を認める決定を出した。時間単位で計算すれば、尹氏の勾留期限は1月25日だが、検察は26日に起訴していた。また、地裁は尹氏を逮捕した公捜庁の捜査範囲に内乱罪が含まれていないことなどを指摘した。
検察が決定を不服として即時抗告するか注目されたが、検察側は「裁判所の決定を尊重する」として断念した。これを受け尹氏は8日、釈放された。歩いて拘置所を出てきた尹氏は支持者らに手を振ったり頭を下げたりしながら応えた。また、弁護団を通じて「不正をただしてくれた(ソウル)中央地裁裁判部の勇気と決断に感謝する」などとするコメントを発表。支持者らに向けては「応援して下さった多くの国民、そして私たちの未来世代の皆さんに深く感謝申し上げる」とした。
釈放され、大統領公邸に戻った尹氏は、今後、在宅で刑事裁判を受けることになる。また、尹氏をめぐっては弾劾裁判も進められており、尹氏の罷免の是非を判断する憲法裁判所の弾劾審判の決定が今月中旬にも見込まれている。韓国紙のハンギョレは、弾劾審判の決定について、尹氏が拘束を取り消され、釈放されたことに関連し「弾劾審判には大きな影響を及ぼさないとの見方が支配的だ」と解説。専門家の見解を紹介しながら「憲法裁は当初から高度な立証が必要な刑事裁判と憲法裁判の違いを区別していることから、尹大統領の刑事裁判での拘束取り消しと弾劾審判とはあまり関係がないということだ」とした。一方、弾劾を主導する野党は、尹氏を擁護してきた保守勢力が勢いづき、政権奪還を目指す上で不利に働きかねないとみて警戒を強めている。
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