<W解説>韓国検察への風当たり強く=尹大統領、勾留取り消しで釈放
<W解説>韓国検察への風当たり強く=尹大統領、勾留取り消しで釈放
韓国のユン・ソギョル(尹錫悦)大統領が今月8日に釈放されたことをめぐり、裁判所の勾留取り消し決定に異議を唱えなかった検察への批判が高まっている。最大野党「共に民主党」のチョ・スンレ首席報道官は同日、「検察が国民を裏切り、法秩序はもちろん、韓国と国民を危険に陥れた」と非難した。同党など野党5党は、シム・ウジョン検事総長に辞任を求め、拒否した場合は弾劾を推進することを表明した。

尹氏は昨年12月に非常戒厳を宣言したことをめぐり、今年1月、内乱を首謀した罪で逮捕・起訴された。非常戒厳は韓国憲法が定める戒厳令の一種。戦時や事変などの非常事態で、軍事上、必要となる場合や公共の秩序を維持するために大統領が発令するものだ。戒厳令の発出は1987年の民主化以降初めてのことだった。

だが、戒厳令は国会議員の過半数が解除を求めた場合、大統領はこれに応じなければならず、発令直後、国会で本会議が開かれ、出席議員の全員が解除に賛成。尹氏はわずか6時間で非常戒厳を解いた。

「共に民主党」など野党は、尹氏が「憲法秩序の中断を図り、永続的な権力の奪取を企てる内乱未遂を犯した」などとして憲法違反を指摘し、尹氏の弾劾訴追案を国会に提出した。先月14日に採決が行われ、賛成204票、反対85票で同案は可決した。これを受け、尹氏は職務停止となり、現在、チェ・サンモク経済副首相兼企画財政部長官が大統領の権限を代行している。

非常戒厳の宣言によって生じた政治的、社会的混乱は大きく、野党は尹氏に内乱の疑いがあるとして告発。公捜庁と警察の合同捜査本部が捜査を進め、同本部は1月15日、尹氏の身柄を拘束。韓国の現職大統領の拘束は憲政史上初めてのことだった。さらに捜査本部は同月19日未明、内乱を首謀した疑いなどで尹氏を逮捕した。検察は同26日に起訴したが、尹氏の弁護側はその時点では身柄を拘束できる期間を過ぎており、違法だと主張した。勾留期限をめぐっては、逮捕状審査で捜査当局の資料が裁判所に預けられている間は勾留期間に参入しないとの法規定がある。検察はこの期間を日付単位で計算したが、ソウル中央地裁は、時間単位で計算するのが妥当と判断。今月7日、尹氏の弁護側による勾留取り消し請求を認める決定を出した。時間単位で計算すれば、尹氏の勾留期限は1月25日だが、検察は26日に起訴していた。また、地裁は尹氏を逮捕した公捜庁の捜査範囲に内乱罪が含まれていないことなどを指摘した。

検察は即時抗告することもできたが、検察側は裁判所の決定を尊重するとして断念した。裁判所の決定趣旨と、憲法で定められた令状主義原則などを総合的に考慮したとしている。これを受け尹氏は8日、釈放された。歩いて拘置所を出てきた尹氏は支持者らに手を振ったり頭を下げたりしながら応えた。また、弁護団を通じて「不正をただしてくれた(ソウル)中央地裁裁判部の勇気と決断に感謝する」などとするコメントを発表。支持者らに向けては「応援して下さった多くの国民、そして私たちの未来世代の皆さんに深く感謝申し上げる」とした。

釈放され、大統領公邸に戻った尹氏は、今後、在宅で刑事裁判を受けることになる。また、尹氏をめぐっては弾劾裁判も進められており、尹氏の罷免の是非を判断する憲法裁判所の弾劾審判の決定が今月中旬にも見込まれている。

尹氏が釈放されたことについて、与党「国民の力」のクォン・ソンドン院内代表は「違法な拘束から52日ぶりになされた至極当然の釈放だ」と指摘した。一方、野党「共に民主党」は「内乱の首謀者を釈放とはどういうことか」と反発。同党のパク・チャンデ院内代表はシム氏について「即時抗告して上級審の判断をあおぐ機会を自ら放棄し、内乱を首謀した尹錫悦を釈放した」と検察を批判した。同党など野党5党は、シム・ウジョン検事総長の辞任を求めている。

検察が裁判所の決定に異議を唱えなかった背景には、2012年に勾留執行停止決定への即時抗告は違憲と判断した憲法裁判所の判決があるものとみられている。過去に違憲と判断された即時抗告に踏み切ることに、検察が負担を感じたとの見方が出ている。

しかし、検察は今回の裁判所の判断は「承服できない」としている。シム検事総長は検察の特別捜査本部長に対し、国家的な重大な事案であり、揺らぐことなく公訴維持に万全を期すよう指示した。また、シム氏は10日、野党が自身の辞任を求めていることについて、「辞任あるいは弾劾の理由になるとは思ってない」と述べた。
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