絶対的権力を持つ韓国大統領は、政権交代を狙う反対勢力からの批判の的になりやすく、韓国では政権が変わるや、前政権の不正に対する捜査が強化される「政治報復」が繰り返されてきた。それゆえ、イ・ミョンバク(李博博)元大統領は収賄罪で、後任のパク・クネ(朴槿恵)元大統領は韓国の財閥からわいろを受け取ったとして逮捕された。一方、朴氏の後に大統領に就任した文氏は退任後も逮捕されていない。
文氏は退任前、その後の生活について「政治には関与せず、普通の市民として生きる。近くにある寺に行ったり、アルプスに登ったり、家庭菜園の手入れをしたり、犬や猫、ニワトリを飼ったりしながら暮らすつもりだ」と話していた。「忘れられた人になりたい」とも語り、注目を浴びることなく一般人同様の平穏な生活を希望していた。その言葉通り、文氏は自身が畑仕事をしたりする姿などをSNSに頻繁に投稿。2023年には、南東部のキョンサンナムド(慶尚南道)・ヤンサン(梁山)市ピョンサン(平山)村の私邸近くに自身がプロデュースした書店をオープンさせた。
一方、最近は政治的活動や発言もしばしば見られる。今年1月には、私邸で最大野党「共に民主党」のイ・ジェミョン(李在明)代表の表敬訪問を受けた。文氏は「今のように極端な政治環境では、統合と包容こそが民主党の前途を開いていく重要なものとなるだろう」と強調。李氏に対し、「民主党と李代表は統合の歩みをしっかり示しており、これからも頑張ってほしい」と激励した。これに対し、李氏は「非常に共感する。そのようにしていく」と応えた。
2月には韓国紙のハンギョレのインタビューに応じた。記事によると、文氏は、昨年12月に尹錫悦大統領が「非常戒厳」を宣言し、その後、尹氏が弾劾訴追された一連の事態に触れ、「今回の戒厳・弾劾事態を見て、言葉にできないほどの自責の念で眠れない夜を過ごした」と述べた。また、「総体的に尹錫悦政権を誕生させたことについては、国民に申し訳ない」と語った。
文氏は、1月に尹大統領が逮捕された際もSNSでこれに言及。「平凡な市民の巨大な連帯が成し遂げた勝利」とし、尹氏が「非常戒厳」を宣言したことに関連し、「あまりにも痛々しく恥ずかしいことだったが、我々はこれを新たなスタートにしなければならない」とした。
前述のように、ここ4代の韓国大統領のうち、逮捕されていないのは文氏だけだが、文氏にも疑惑がないわけではない。韓国検察は昨年8月、「共に民主党」の元国会議員が2018年、タイに設立した航空会社の役員に文氏の娘の元夫を不正採用した疑惑をめぐり、娘の自宅などを家宅捜索。文氏は元夫を採用するなど娘一家のタイ移住を支援させる見返りに、元国会議員を政府系公団の理事長に任命した疑いがもたれている。また、検察は文氏の娘の元夫が航空業界での実務経験がなかったにも関わらず、役員として月800万ウォン(約90万円)を受け取ったとして、これらの報酬2億ウォン以上が、元国会議員から文氏に対する贈賄にあたるとみて捜査している。検察は娘の自宅を捜索した際、令状に文氏を収賄の容疑者と記載した。
検察はその後、2月に文氏に対し出頭を要請した。文氏はこれに応じなかったものの、文氏は書面調査ならば協力する姿勢を見せたため、検察は書面調査のための質疑書を送付した。韓国メディアによると、検察関係者は「書面調査を通じて当該事件に対する文前大統領の立場を確認したい」としている。一方、文氏が所属する最大野党「共に民主党」は、「尹錫悦政権による前政権への政治弾圧だ」と反発している。
韓国紙の朝鮮日報は先月31日付の社説で、「文前大統領は、執権後2年以上にわたって検察・警察を総動員し、過去の政権を徹底的に捜査した。そして、元大統領2人をはじめ、200人以上が拘束された」とした上で、「そのようなことをしたのなら、せめて自身の家族の不正疑惑については釈明しなければならない」と真摯(しんし)な対応を求めた。
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