韓国では、6月3日に大統領選が行われるが、各世論調査で次期大統領にふさわしい人物としてトップを独走している、最大野党「共に民主党」のイ・ジェミョン(李在明)前代表は今月17日、大統領府について、世宗市に移転させる公約を発表した。
大統領府は、ユン・ソギョル(尹錫悦)前大統領が大統領執務室など大統領府としての機能を青瓦台(旧大統領府)からソウル市ヨンサン(龍山)区の旧国防部(部は省に相当)庁舎に移転させた。
かつて青瓦台には厳重な警備が敷かれ、秘書室長ですら大統領執務室を訪ねる際には事前に電話で許可を取る必要があった。国防上の理由から、地図には一部の観光地図を除いて青瓦台は記載されず、航空写真でも、国内向けのものでは加工処理されるなどしてぼかされていた。
その青瓦台をめぐり、尹前大統領は、国民との距離を縮めたいとして「青瓦台を国民にお返しする」と宣言。自身の政権前のムン・ジェイン(文在寅)政権を「密室政治」と批判し、転換を図ろうとした。青瓦台は尹氏の大統領就任式に合わせ、2022年5月に一般に開放された。これに伴い、青瓦台にあった大統領執務室は旧国防部庁舎に移転した。長年続いてきた権威主義的な「青瓦台時代」を終わらせたことは、韓国現代史における大きな転換点となったと、当時、評価する声が上がった。
しかし、尹氏は今月4日に罷免され、それに伴い、6月3日に大統領選が行われることになった。前述のように、各世論調査の結果から、次期大統領は「共に民主党」の李在明氏が最有力となっている。その李氏は、大統領府と国会議事堂を世宗市に移転させ、同市を「名実ともに行政都市にする」との公約を発表した。李氏は先月開かれた党幹部会議でも大統領執務室の同市への移転について検討を指示。大統領選を見据えた動きとして注目されていた。
同市は2012年に自治体合併により誕生した。ノ・ムヒョン(盧武鉉)元大統領が「行政都市・世宗市」構想を推進し、同市には既に多くの行政機関が移転している。市域の人口は開発前の10万人から、現在は40万人近くにまで増えた。将来的には80万人を想定している。元々、この構想は韓国の人口の半数がソウル首都圏に暮らす極端な一極集中を解消することを主目的に始まった取り組みだ。最終的にソウル市から世宗市への行政首都移転を目指そうとしているが、首都移転となれば憲法改正が必要となるためハードルは高く、構想は現在、途上にある。2004年、憲法裁判所は、「韓国の首都はソウル」と憲法で定められていることを根拠に、新行政首都の設置を定めた特別措置法を違憲としている。
課題はあるものの、次期大統領に最も近いとされる李氏が大統領府などの世宗移転を公約に掲げたことから期待感が高まり、前述のように韓国不動産院が今月24日に発表した同市のマンションの売買価格は前週に比べ急上昇。韓国紙の毎日経済は「全国のマンション価格が先週より0.01%、地方のマンション価格が0.04%下落したのとは対照的だ。ソウル自治区の中で上昇率が最も大きかったソチョ(瑞草)区とソンパ区でも0.18%水準だ。世宗市の住宅価格の上昇幅は、(ソウル近郊のキョンギドの)クァチョン(果川)市(0.28%)に次いで全国に2番目に高かった」と伝えた。同紙によると、不動産院は取材に「定住条件が良好な(世宗市内の)コウン・ダジョンドン(洞)を中心に上昇し、世宗市全体の上昇幅が大きくなっている」と話した。取引件数も増えているといい、同紙の記事によると、同紙のマンションの取引件数は今月1~24日までで741件で、「これは2月の375件の2倍近い件数で、この傾向が続けば、3月の781件を上回ると予想される」と伝えた。
一方、大統領府などの世宗移転について、具体的な計画が示されているわけではないことから、専門家からは大統領選が終われば現実的な課題にぶつかり、価格は落ち着くとの見方も出ている。
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