KBSテレビが15日、警備員ら20人余りの随行員を伴う正哲氏の姿を撮影した映像を報じた。金総書記の誕生日(16日)を控える時期。三男・正恩(ジョンウン)氏への後継体制構築、深刻な食糧難などのなかで、やや意外とも言える登場だとする見方が多い。
正哲氏は2006年にもエリック・クラプトンの公演を見るためドイツを訪れており、当時は日本のメディアがその姿をとらえた。2008年には駐英北朝鮮大使館を通じ、エリック・クラプトンに平壌公演を要請するなど、熱烈なファンとして知られる。このため、多くの対北朝鮮専門家は今回の正哲氏のシンガポール訪問を、報じられた通りライブ鑑賞目的のものとみている。
一方で、背景に注目する専門家もいる。弟の正恩氏が金総書記の後継者となり、正哲氏が権力から遠ざかったのは事実だが、海外で過ごす異母兄で金総書記の長男、正男(ジョンナム)氏の存在を意識しているだろうとの指摘だ。
正男氏は2001年5月、息子と2人の女性を伴い偽造したドミニカ共和国のパスポートで日本密入国を試みたが成田空港で逮捕され、退去強制処分となった。この事件で正男氏は金総書記の眼中から外れたとされる。権力周辺からも追いやられ、マカオや中国・北京などを往来しながら海外で過ごすようになった。
最近では、日本の東京新聞のインタビューに応じ、世襲に反対するようなニュアンスの発言をしている。このため、正男氏は正恩氏の勢力からけん制を受けたと伝えられた。一部では、正恩氏による正男氏暗殺計画説も出ていた。
家族間の権力闘争は、金総書記が故金日成(キム・イルソン)主席の後継者となる際にもあった。金総書記の異母弟で、権力争いに敗れたとされる金平一(キム・ピョンイル)駐ポーランド大使は、1988年からハンガリー、ブルガリア大使などを歴任し、海外生活を続けている。故金主席の実弟で、金総書記の叔父にあたる金英柱(キム・ヨンジュ)最高人民会議常任委員会名誉副委員長も、1970年代半ばから1990年代の初めまで長期間にわたり、慈江道に「島流し」にされていた。
正哲氏は、これらの事件を反面教師にしているのではないかとの見方だ。ある専門家は、正哲氏が自ら、権力と距離を置いているという姿を演出することで、正男氏の轍を踏まないと知らせる狙いがあった可能性を指摘。正恩氏との新たな関係設定の一環だとの考えを示した。
こうした分析には反論も多い。別の専門家は、正哲氏はすでに権力から外れ、正恩氏との関係も良好だと伝えられており、今回の件を政治的に見るのは過剰反応だと強調した。
韓国の政府当局者は慎重な姿勢だ。ある当局者は、正恩氏と正哲氏が友好的関係なのか、敵対・競争関係にあるのか、正哲氏が内心は権力に関心があるのか、両氏の後援勢力間の力関係などを総合的に見る必要があると話している。
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