漫画家・あだち充原作で、1980年代に放送された人気アニメ『タッチ』で、主人公・上杉達也の弟・和也の声を演じた声優の難波圭一。現在でも現役で声優、ナレーション、俳優の仕事を行いながら、ケッケコーポレーションの代表取締役を務め、若手に対して指導も行っている。また、はじめての方でも声のレッスンが基礎から学べる動画配信教材『ピュア・ヴォイス おとなの声優倶楽部』の監修も行なっている。
ジェイタメ編集部は難波を直撃、伝説のアニメ『タッチ』の舞台裏を聞いた。
──まずは、難波さんが声優として活動するきっかけから教えて下さい。
僕は野沢那智さんが主宰していた劇団薔薇座にいました。そこはベテランの声優の玄田哲章さんとか、戸田恵子さんとかがいる劇団でした。劇団では、ミュージカルをやることが多かったですね。まだ20代で、舞台演劇に熱があったのですが、ある日、劇場アニメ『超人ロック』の声優のオーディションを受けることになりました。このオーディションに合格したのが声優デビューのきっかけでした。
──もともと劇団にいたということは、演じることに興味を持っていたのですか?
産まれながらに、そんな血がありました(笑)。物心つく前から自宅にあった床の間を舞台にして、そこでいろんなものを演じるのが好きでしたね。人を笑わせるのも好きで、役者でなかったらお笑い芸人の道も考えたかもしれません。高校の時はロックバンドのボーカルをやっていまして、このままミュージシャンになろうと思っていました。当時の憧れは海外ではレッド・ツェッペリン、クイーン。国内のミュージシャンでは沢田研二さんでしたね。親からは大学に行くように言われていたのですが、結局、高校を卒業すると浪人をすることになりました。ただ、浪人中に音楽でご飯を食べて行くのは難しいのではと考えるようになりまして、そこで、「自分は演じることも昔から好きだったから、芝居の道もあるのでは」と考えて、大学の受験と同時に薔薇座を受けました。
──声優としては、大人気アニメ『タッチ』の上杉和也役を務めてられています。起用されることになった経緯を教えて下さい。
オーディションを経て和也役を務めることになりました。僕が声優デビュー2年目の頃で、声優のことも少しずつわかり始めていた頃ですね。プロデューサーの方が先入観を持たないように、名前が伏せられて声だけのオーディションでした。実はその時、主人公の上杉達也役のオーディションも受けていたんです。ただ、「自分は達也ではないな」って感じていましたね。これがなんとなく分かっちゃってたんですよ。当時、僕の声から生まれるイメージが線の細さだったり、薄幸な少年であったんだと思うんです。もし、達也みたいな2枚目半のようなキャラクターを演じることになれば、普段とは違う、無理をして特別な意識を持った演技をしなければならなかっただろうなって思います。
──和也役を務める上で準備をしたことは?
とりあえず、毎日原作を読んで、『タッチ』の世界観、そして和也と達也や朝倉南との関係性を読みとろうとしていました。ただ、原作を読んでいることで注意しなければいけないこともありました。和也は物語の途中で亡くなることになり、演じている私はその展開を知ってしまっています。しかし、もちろんアニメの中の和也は自分が高校1年生で突然、交通事故で亡くなってしまうなんて知らないわけです。そこで、演じる際は最初から亡くなってしまうことを意識して演じてしまわないようにと言われました。和也は頑張って朝倉南と結婚をしたいという将来を夢見て、実現をしようとしているわけですから、そんな和也を演じる必要がありました。演技が下手だった当時の僕にはそれは難しかったですね。
──『タッチ』では、達也役が三ツ矢雄二さん、朝倉南役が日髙のり子さん、そして達也と和也の“女房役”である松平孝太郎を林家こぶ平(現・林家正蔵)さんが演じていました。それぞれの方の印象は?
三ツ矢さんは僕が声優デビューする前からミュージカルで共演をしていましたので、もともと仲が良かったです。大先輩なんで、すごくチームを引っ張ってくれましたし、僕にもいろんなアドバイスをくれました。日高さんは元々アイドルで、当時は声優を初挑戦という感じでしたね。今でも日高さんはバラエティ番組で朝倉南の声を求められるじゃないですか。これってすごいことだし、面白いなって思いますね。こぶ平さんは一般的な声優では出せない“味”のようなものを持っていました。すごい勉強熱心でしたし、いつもいろんな本を読んでいました。今、振り返ってみても、三者三様、とてもバラエティに富んだチームでしたね。
──今の難波さんが『タッチ』をあらためて見た時、ご自身の演技をどう感じますか?
下手だと感じもしますが、そんな未熟な若さが見えてしまうからこそ、良いと思える部分もあります。そして、そんなところが評価をされたのではないかと思ったりしますし、そここそが“上杉和也”というキャラクターにマッチしたのではないかとも思います。私も当時から比べれば技術的には上手くはなっていると思いますが、和也は今の自分ではできない演技だと思います。今、「和也の声をやって下さい」と頼まれれば、同じような声は出せると思うのですが、それは和也ではないとも感じたりしますね。
──ちなみに難波さん自身は、もともと野球は好きでしたか?
実際に野球部に入ってプレーをしたりしていたわけではないですが、野球は大好きですよ。僕は広島の中学校、高校に通ったので広島カープの大ファンです。古葉竹識監督の時代で、衣笠祥雄や江夏豊が活躍していた時は特に夢中で、大好きだったのは山本浩二選手でした。
──山本浩二選手と上杉和也では、だいぶタイプが違いますね。
確かに、全然違いますね(笑)。そもそも当時の骨太のカープの印象と、ラブコメの『タッチ』の世界観って全然違いますよ。ちょっと面白いですね(笑)。
<プロフィール>
難波 圭一(なんば けいいち)
山口県岩国市出身
有限会社ケッケコーポレーション代表
【出演】
タッチ(上杉和也)
きまぐれオレンジ☆ロード(1987年 ー 1988年、小松整司)
機動戦士Ζガンダム(カツ・コバヤシ)
ドラゴンクエスト ダイの大冒険(第1作)(1991年 – 1992年、ポップ、ミストバーン)
など多くの作品に出演
https://www.purehearts.co.jp/pure_voice/lp01/
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