新宿の紀伊国屋ホールで開催された、韓国の作家チョ・ナムジュさんの
来日トークイベントに赴きました。日本の作家である川上未映子さんとの
対談という豪華なものでした。

チョ・ナムジュさんの『82年生まれ、キム・ジヨン』は現代の韓国女性の
生きづらさをありありと描写する小説として韓国で大ベストセラー。
日本でも大変話題になっています。

対談は、作品が韓国でどう受け入れられ社会現象になったか、という話から
川上さんによる小説の技法的な質問まで多岐にわたり、大変聞き応えあるものでした。

この小説についてはすでにいろんなところで話題になっているので、
トークイベントのもう一つの話題であった新刊『ヒョンナムオッパへ』について
触れたいと思います。

これは、七人の女性作家による短編集で、チョさんの作品
「ヒョンナムオッパへ」が短編集の冒頭を飾っています。

「ヒョンナム」は男性の名前ですが、対談の中で「オッパ」という、
韓国で、女性が年上の男性を呼ぶ呼称について話題になりました。
そう、韓国語学習初期の重要単語である「오빠(お兄さん)」です。
本来は、親族間で使われる呼称が、いつの日か親しい
年上の男性を呼ぶときに使われ出しました。

一昔前は、韓国では年上女性と年下男性というカップルは非常に珍しく、
女の子はたいてい年上の彼氏を「オッパ」と呼んでいたし、
お付き合いする間柄でなくても、大学のサークルやゼミには
軍隊上がりの数歳上の男性が自然と多くなるので「オッパ」と呼び、
呼ばれる関係はとても多かったと肌で感じました。

実際、そう呼んでもらいたい男性も多く、私の留学仲間の日本の友人は、韓国で、

「나는 스즈키 오빠라는 이름이야. 그냥 오빠라고 부르면 돼. 」
(ナヌン スジュキ オッパラヌン イルミヤ。 クニャン オッパラゴ プルミョン ドェ
/俺は鈴木オッパというんだ。そのままオッパって呼んでくれればいいよ。)

なんて可笑しな冗談を言うほどでした。

しかし、女性が男性を「オッパ」と呼ぶことから来る暗黙の主従関係の
ようなものが、この短編小説の静かなテーマになっています。
(いま読み進めているところです!)

チョさんは、「オッパ」と呼ぶことにより、女性を可愛く見せ、男性を尊重・リスペクトし、
女性の立場を低くする作用があるとしながら、こんなふうにおっしゃいました。
(うろ覚えで一言一句そのままでない可能性があります。)

남성의 권위나 힘을 로맨틱하게 포장하고 있다.
(ナmソンエ クォニナ ヒムr ロメンティッカゲ ポジャンハゴ イッタ
/男性の権威や力を(オッパという言葉は)ロマンチックに包装している)

これを聞いたとき、あぁ、もしかしたら、韓国では、親族以外の男性を
「オッパ」と呼ぶ人が減ってくるなんてこともあるのかもしれない、と。

パク・クネ前大統領退陣のときの「ろうそくデモ」は記憶に新しいですが、
韓国は日本よりも、声を上げて社会を変えよう、変えられると思う風潮が強いです。

「オッパ」という呼称の持つ魔力に気づいた人が疑問に思い出し、
声を上げ、広がるということがこれから起こるでしょうか。

この、トークイベントの最後を飾ったこのパートナーの男性に対する
呼称問題は日本語のある言葉にも発展し、大変盛り上がりました。
次号に続きます。



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