自伝的戯曲「向日葵の柩」のソウル公演に合わせ来韓した作家の柳美里氏
自伝的戯曲「向日葵の柩」のソウル公演に合わせ来韓した作家の柳美里氏
【ソウル8日聯合ニュース】「在日コリアンによる文学は韓国と日本の狭間にあり、日本では依然として異文化として評価される。だから韓国の観客に作品を見てもらいたいと考えるようになった気がする」――。
 在日韓国人の芥川賞作家、柳美里氏が、自伝的戯曲「向日葵の柩」を携え韓国を訪れた。同作品はソウル・世宗文化会館Mシアターで9~13日に上演される。聯合ニュースのインタビューに応じた柳氏は、「韓国の観客がどう受け止めるかが気になる」と、ソウル公演への期待感を語った。
 劇団新宿梁山泊の金守珍(キム・スジン)代表が演出を手がけた「向日葵の柩」は、母国語の韓国語を忘れて生きている在日韓国人の青年が、韓国人女性と出会い、母国語の記憶を取り戻そうとするが、アイデンティティーの混乱のなか破局を迎えるというストーリー。柳氏は「家族の物語と受け取られるかもしれないし、最後のシーンに希望を見出す人もいるでしょう」と紹介した。
 例えるならば、在日コリアンは突然の事故で根っこを失ってしまった人たちのようだと話す柳氏。そのため、絶えず自分の居場所を見つけようとするのだと。人間にとって最も重要なものは言語。その視点から、日本人でも韓国人でもない、在日の心理を描こうとした作品だという。
 柳氏自身も、家族の不和、学校でのいじめなどを経験し、自殺を試みたことがある。その傷を小説や戯曲に余すところなく盛り込み、1997年の芥川賞(「家族シネマ」)を含め、日本の著名な文学賞を相次ぎ受賞した。
 自分は何でもない、どこにも属さない、居場所がないので文章の中に居場所をつくろうと努力しているという柳氏。在日韓国人の置かれる境遇を橋頭堡(きょうとうほ)にも例える。
 「橋頭堡と言えば聞こえはいいですが、戦争が起きれば真っ先に壊される橋です。韓流ブームで多くの韓国文化が日本にも紹介されていますが、在日コリアンに対する差別は変わっていません」。
 ただ、そうした抑圧が柳氏にはむしろ創作活動の原動力となっているという。小学校でひどいいじめに遭い、文学賞を受賞したときにも、「朝鮮人のくせに日本の文学賞を奪った」と脅迫電話を受けた。かえって「負けてなるものか」という思いが湧いた。
 韓国語がほとんどできない柳氏だが、最近は韓国語の勉強にいそしんでいるという。今回の公演を機に、ソウルに住まいを移すかどうかを決める考えだ。
 「1度は故国のソウルで暮らしてみたかった。自分が今も放浪者なのか確認してもみたい。もともと自分がいた地に根を下ろすことができるか知りたいんです」。

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