俳優ペ・ヨンジュン(写真提供:OSEN)
俳優ペ・ヨンジュン(写真提供:OSEN)
■想像もできなかった世界

ペ・ヨンジュン の最新ニュースまとめ

『不思議の国のアリス』は、1865年にルイス・キャロルが発表した童話で、寓話と風刺に満ちていて大人も十分に楽しめる作品だ。世界中で聖書の次に読まれたとも言われている。

 この物語の核心は、白ウサギを追ったアリスが穴の中に落ちてしまい、その瞬間から多くの不思議な体験をするところにある。つまり、アリスが無心に白ウサギを追ったことが物語を広げたのだ。

 この「アリスにとっての白ウサギ」が、「ペ・ヨンジュンにとっての俳優」だった。彼もまた、自分の人生のすべてを投げ出して俳優という仕事に邁進していたら、白銀の世界で雪穴に落ち、そこから想像もできなかった出来事をどんどん体験するようになった。

 ペ・ヨンジュンの身になって考えてみると、よくわかることだ。ある日突然、白銀の世界が熱帯林に変わってしまうかのように、自分が隣国の人から多大な尊敬と愛情を受けるまでになったのである。

 それほど人生が激変したら、果たしてどんな心持ちになるか。まさに、自分が「ワンダーランド」に迷い込んだような気分になるのも必然だろう。ワクワクして興奮を抑えきれないのと同時に、急に不安になってブルブル震えたり…。大勢の人の中にいても孤独を感じるという心情も理解できる。

 一方、ファンの側からすれば、ペ・ヨンジュンの存在自体が“不思議”の最たるものだった。


■不思議な体験

 日本の多くの女性はペ・ヨンジュンの登場に意表をつかれたのではないか。

 普通、日本で長く暮らしていれば、新しく出てくる男優の雰囲気も大方は察しがつく。そのイメージはみんな自分の想像の枠内に納まっていて、逸脱することはない。けれど、ペ・ヨンジュンだけは違った。まったく想像しない世界から彼は突然に現れた。しかも、「自分の理想にピッタリ」とあとで気づく姿……。

 ファンにとって“不思議”だったペ・ヨンジュンが、韓流ブームを巻き起こしながら自ら“不思議”な世界へと入っていく。それが『冬のソナタ』以後に日本で生じた現象だった。

 日本に住むペ・ヨンジュンのファンにとって一番幸運だったのは、俳優デビューの最初から彼をずっと見ていなかったことだ。逆説的な言い方をしているわけではない。心底から「見ていなかったことが幸運だった」と思える。

 1994年にデビューした当時のペ・ヨンジュンは、俳優人生におそるおそる足を踏み出した22歳の青年。瑞々しい感性の可能性を感じさせるが、まだ何もかもが未知数であった。

 なにごとも時間がかかるのである。悩み、苦しみ、戸惑いながら、ペ・ヨンジュンは確実に俳優として必要不可欠な表現力を身につけていった。

 けれど、彼は満足できなかった。

「自分には足りないものが多すぎる」

 そういう嘆きに似た感情がくすぶっていた。


■人生観が一変する衝撃

 ペ・ヨンジュンはあまりに完ぺきを求めすぎていた。むしろ本人よりも周囲の人が、ペ・ヨンジュンという俳優の実力を公平に評価していた。

 だからこそ、ユン・ソクホ監督はペ・ヨンジュンを『冬のソナタ』の主役にキャスティングしたのであり、ファンはペ・ヨンジュンがつくり出したイメージに酔いしれたのだ。それは、客観的な修正とも言えた。自分を過小評価するペ・ヨンジュンを世間が公平に讃えたのだ。

 しかし、それは韓国での話。日本のファンは韓国で『冬のソナタ』の放送が終わったときでも、まだペ・ヨンジュン自身を“発見”していなかった。

 2003年の春にNHKがBSで『冬のソナタ』の放送を始めたとき、すでにペ・ヨンジュンは映画『スキャンダル』の撮影に没頭している最中だった。多様な演技を試したいという気持ちが強くなり、彼は映画界に進出して今まで演じたことがない役に挑戦していた。

 どれほど演技で苦悩したかは想像にかたくない。浮気性の頽廃貴族という役は、自ら望んで取り組んだとはいえ、まるで勝手がわからない難役だった。

 そんなふうにペ・ヨンジュンが苦難の中にいるとき、日本では1年前の韓国のドラマを見て、人生観が一変するほどの衝撃を受けた女性が続出した。『冬のソナタ』でペ・ヨンジュンが演じたミニョン(あるいはチュンサン)という役は、それほどに日本の女性に強い影響を与えた。


■運命の人

 初めてペ・ヨンジュンを見たのが『冬のソナタ』のミニョンだったから、あれほど衝撃が強かったのだ。

 仮に、『愛の群像』のジェホや、『ホテリアー』のドンヒョクだったらどうだろうか。とても魅力的な主人公であることは確かだが、「人生観が一変するほどの衝撃」には至っていないかもしれない。

 何が違うのか。

 ミニョンは別世界の住人だったのだ。日本の大人の女性たちが、今までに見たことがない佇まいの男性だった。だからこその「衝撃」だった。

 子供には、動物園に連れていってくれる大人が必要なように、成熟した女性にも未知なる別世界に連れ出してくれる「運命の人」が必要なのである。

 そんな人が道の先で微笑んでいれば、どの方向に導かれていったとしても、その方向に歩みだすのもワクワクする楽しみがある。

「運命の人」を身近に感じていれば、なんでもできるような気がする。そのように、今までの価値観が通用しないということが、実はなんと心地よいことなのか。

 まだ見ぬ風景を探して…。


■白ウサギはどこにいる?

 憧れの人から離れていくことは、それほど難しいことではない。あの「衝撃」を忘れられれば済むことである。

 むしろ、離れないことのほうが難しい。思い続けるには、時間に抗う情熱が要るのである。

 試練が続いている。

 同時に、ペ・ヨンジュンに出会った衝撃が今も続いている。

 それにしても、どんなに苦労が多い人生でも終わってみれば一瞬である。あせっても、あせらなくても、人生はやがて終わる。

 そうであるならば、ペ・ヨンジュンにはこれからの人生において、最高の瞬間を持ってほしい。

 そして、自分が本当に納得できるときには、演技の世界という「ワンダーランド」に入って行ってほしい。

 それが彼の真の幸せであるならば、その姿を見ることがファンにとってもこの上ない幸せなのである。

 白ウサギは決していなくならない。

 ただ、今は姿が見えないだけである。

 不思議の国のペ・ヨンジュン。

 彼の物語はこれから面白くなる。


文=康 熙奉(カン ヒボン)
(ロコレ提供)

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