『冬のソナタ』の演出で有名なユン・ソクホ監督を取材したときの話である。ひととおりのインタビューが終わって雑談に移ったとき、彼はこう切り出した。
「韓国の芸能界では、マネジャーが問題ですね。担当する芸能人にメディアから取材依頼が来ても、面倒に思う人が多いのか、断ってしまうんですよ」
この話を聞いて、すぐに合点がいった。
ユン・ソクホ監督が指摘するような事態を多く経験していたからだ。
芸能人のマネジャーというと、日本では付き人に毛が生えた存在、という印象がある。タレントの仕事は所属事務所が仕切っていて、マネジャーは現場でスケジュールを管理する役割に徹することが多いのでは…。
韓国の場合は事情が変わる。所属事務所よりマネジャーのほうが実権を握っている例がよくある。
たとえば、ある著名な俳優にインタビューをしたいと希望する。所属事務所に連絡を取ると、「ウチでは決められないから、直接マネジャーに連絡して」と言われたりする。しかも、その場でマネジャーの携帯電話の番号を教えてくれる。
すかさずマネジャーに電話をする。ここからが難儀する。
一応は話を聞いてくれるけれど、答えをすぐに出さない。「また電話をしてくれ」と言われる。そうやって何度も電話をするのだが、はぐらかされた上に最後は「難しい」の一言で断られる。そんなことがよくあった。
早い段階で断ってくれれば、他の俳優に人選を変えることができたのに、ギリギリまで待たされて最後に結局はダメを出される。泣くに泣けない、という気持ちだ。
■芸能界は人間関係が命
ユン・ソクホ監督が指摘した「マネジャーの問題」。これは、濃密な人間関係を重視する韓国社会とも大きく関連している。
つまり、所属事務所の組織的な管理・運営より、芸能人とマネジャーの密接な関係が優先されるのが韓国芸能界の通例なのである。
その結果、どういうことが起きるのか。
マネジャーは芸能人の成功よりも自分の利益を先に考えるようになる。わかりやすく言えば、マネジャーは取材依頼を値踏みしたうえで、面倒くさいものは切り捨ててしまうのである。たとえ、自分が担当する芸能人の広報・宣伝に効果があると思えるものまでも…。
その点でメディア側は割りを食う。そうなると、他の方法を考えるようになる。芸能界の様々なツテを頼り、マネジャーに影響力を行使できるような人物を探して、そのルートから改めて依頼するのである。このほうが、お目当ての芸能人を取材できる確率がずっと高かった。
情実が仕事の成否を分ける、というのは、序列意識に基づく儒教的な人間関係を重視する韓国社会ではよくあることだが、とりわけ芸能界はその傾向が強い。その立場をうまく使っているのが、芸能人のマネジャーというわけだ。
しかし、弊害も多い。マネジャーの効果的な支援を受けられずに消えていった芸能人も数多いことだろう。
マネジャーは担当する芸能人の成功のために最善を尽くすべきだ。それが、自分の仕事の本分なのである。
文=「ロコレ」編集部
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