兵役から復帰後に『王の涙-イ・サンの決断-』に主演した(写真提供:OSEN)
兵役から復帰後に『王の涙-イ・サンの決断-』に主演した(写真提供:OSEN)
20代の頃のヒョンビンが主演した『アイルランド』(2004年)と『彼らが生きる世界』(2008年)は、似たところが多いドラマだ。共にイン・ジョンオクとノ・ヒギョンという多くのマニアを持っているカリスマ脚本家の作品で、繊細な感情と洗練されたセンスが作品を覆っている。2本とも視聴率は低かったが、名作ドラマとして有名だ。

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■主役はドラマをリードする

『アイルランド』で俳優としての存在感を認められたヒョンビンは、『彼らが生きる世界』によって名実共に主演俳優としての重みを備えた。

 この『彼らが生きる世界』でヒョンビンの相手役を演じたソン・へギョは、長い演技経験にもかかわらず、いつも女優として賛否が分かれる。彼女の演技力は『彼らが生きる世界』でも問題になった(ソン・ヘギョは2016年に『太陽の末裔』で高い評価を得たが、2008年当時は批判されることが多い女優であった)。

 それに比べて、ヒョンビンの演技は始めから好評だった。しかし、それはヒョンビン個人への好評であって、ドラマ全体への評価ではなかった。彼にはまだ主役としてドラマを導いていく力は見られなかった。

 主役の義務は自分が担ったキャラクターをドラマのリード役にすることだ。相手役だけではなく、主人公と関係を持っているすべてのキャラクターを導かなければならない。しかも、相手の俳優が十分な働きを果たしていない場合にはそれをカバーしなければならない。

 この点で、『彼らが生きる世界』のヒョンビンは、前半部分で責務を十分に果たしたとはいえなかった。彼にはまだ戸惑いがあるように思えた。しかし、中盤以降にヒョンビンの演技は見違えるようになり、彼が劇中での存在感を拡大していくにつれて、ソン・へギョの演技もよくなった。


■カリスマ脚本家も絶賛

 ヒョンビンとソン・ヘギョは、劇中ではテレビ局のドラマ監督と作家で、さらに恋人同士の役を演じた。一見華麗に見えるが、2人とも深い心の傷を負っていて、その傷によって互いにコンプレックスを感じていた。

 そんな状況でも、2人は仕事と恋を共にしなければならない。まさしく、単純な恋物語でもなく、よくある職場の出来事でもなく、立体的なキャラクターが交差する繊細で複雑なドラマだった。

 その主役を担うには、短時間の準備や並みの演技力では難しい。ヒョンビンにはそれを演じられるだけの能力が備えられていたが、ソン・へギョはまだそこに至らなかった。

 当然、放送して間もないときは2人の息が合わず、見ている人もハラハラしていた。しかし、徐々に2人の関係が完成されていったのには、ヒョンビンの力が大きかった。もちろん、ソン・へギョも努力しただろうが、ヒョンビンの演技が彼女に集中できる機会とエネルギーを与えたのである。

 ヒョンビン自らも『彼らが生きる世界』を通じて自分が一層発展したことを感じた。視聴率がひとケタだと俳優はどうしても気落ちしてしまうが、撮影現場でのヒョンビンはいつも積極的だった。彼は放送後、「いい先生と学友に巡り会い、二度と聞けない授業を受けて、学生に戻った気分だった」と語っていた。

 シナリオを書いた脚本家のノ・ヒギョンもこう語る。

「ヒョンビンという俳優の可能性を信じた。彼の演技に120%満足する」

 それほどヒョンビンは自分の役を見事に演じた。

 そういう意味でも、『彼らが生きる世界』というドラマは、ヒョンビンがようやく『私の名前はキム・サムスン』の影から抜け出せた作品であったとも言える。


■あえて難しい役に挑戦

 映画『友へ/チング』がドラマ化されると発表されたとき、多くの人が関心を持ったのは、映画でチャン・ドンゴンが演じたドンスの役を誰が担うだろうかということだった。そして、ヒョンビンがキャスティングされたことを知らされると、特に映画『友へ/チング』が好きな人たちは憂いを示した。ヒョンビンのジェントルなイメージは、荒くて強いカリスマを持っているドンスに似合わない、と思ったからだ。

 それに、映画でチャン・ドンゴンの演技があまりに印象的だったことも、新しくドンスを演じるヒョンビンには大きなプレッシャーだった。

 けれど、ヒョンビンは自信を見せた。

「最初から、チャン・ドンゴン先輩と比べられると予想していました。そのため反対する人も多かったのですが、それを知った上で挑戦しました。撮影しながら1回も後悔したことはありません」

 ヒョンビンがこのドラマを準備しながら見せた努力は、驚くものだった。映画版でのチャン・ドンゴンの演技に影響されることを避けるため、なんと最初は映画版を見ないようにしたのだが、そのうち考えが変わり、「受け入れる必要のあるものは受け入れよう」と決心した。そして、1日に4回も5回も映画版を見て、チャン・ドンゴンの演技を分析した。

 釜山を舞台としている作品だけに、自然な釜山訛りが話せるように練習も怠らなかった。役に似合う声を出すために、一度やめたタバコも吸い始めた。

 この映画には、格闘シーンも多かった。当然、ケガをする危険も大きい。ヒョンビンの足にはもう「一生ものの傷跡」ができたという。それほどの意気込みを見せて、ヒョンビンはドラマ版の『チング~愛と友情の絆~』を演じきった。


■「強さ」という新しいキャリア

 2010年には、『私の名前はキム・サムスン』と同じように財閥の御曹司に扮した『シークレット・ガーデン』に主演して、ハ・ジウォンと共演した。

 このドラマは大ヒットしたが、主役の男女の身体が入れ替わるという特異なストーリーの中で、女性の仕種を見事に演じきったヒョンビンの評価はさらに高まった。

 次はどんな作品で楽しませてくれるのか。

 そう期待していたファンが驚いたのは、ヒョンビンが志願して2011年3月に海兵隊に入隊したことだった。

 海兵隊は軍隊の中で一番訓練が厳しいことで有名だ。いくら兵役だったとはいえ、ヒョンビンが自ら過酷な環境に進んだことは意外だった。

 しかし、ヒョンビンにしてみれば、意外でもなんでもなかった。

「自分の内面を探せる時間は貴重だと思います」

 ヒョンビンは海兵隊に入ってこう語っている。新しい自分を見つけるために、彼はあえて厳しい状況に自分を放り出そうとしたのだ。勇気がある俳優だ。

 除隊して芸能界に復帰したヒョンビンは、2014年に『王の涙-イ・サンの決断-』に主演した。この映画でヒョンビンは逞しい国王像を作り上げた。何よりも、弓を引くときの背中の筋骨隆々ぶりがまぶしかった。

 海兵隊の厳しい訓練をやり遂げたことで、ヒョンビンは自分の俳優人生に「強さ」という新しいキャリアを加えたのである。

 2015年にはドラマ『ジキルとハイドに恋した私』という異色作にもトライしたヒョンビン。彼の今後の俳優人生も、間違いなくチャレンジの連続であることだろう。


文=朴敏祐(パク・ミヌ)+「ロコレ」編集部
(ロコレ提供)

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