先ほど苗字のお話をしましたが、韓国人はことのほか姓を大切にしますので、苗字にまつわる話をもう少し掘り下げます。韓国にはソウルの南にある南山(ソウルタワーがある所)で石を投げたら「金キムさんか李イさんか朴パクさんに当たる」という言葉があります。多様な苗字がある日本では「そんな馬鹿な」と思うかもしれませんが、まんざら嘘ではないのです。
韓国人の苗字に金、李、朴姓が占める割合は約四十五%で二分の一弱ですから、石に当たってもおかしくありません。金姓を持っている韓国人は韓国の人口約五千万人(二〇一三年現在)の二十一・六%です。約一千万人が金さんですから五人に一人の比率になります。劇場など人の集まっている場所で「金さん!」と呼んだら振り向く人が何人になるやら……。
李姓が約六百八十万人で朴姓が十五%近い三百九十万人ですから、この三つの姓だけで半分近くを占めます。他に崔、鄭、姜と続きますがビッグ三にはかないません。ちなみに私の姓権ごんは十五番目ですが韓国の姓二百三十前後の中では多い方です。
●本貫
韓国には昔からの姓が二百三十前後しかないのに日本では約三十万、中国では約一万五千(一説には二万とも)くらいだそうです。なぜ韓国の姓が極端に少ないかというと、韓国には本貫という制度があるからです。同じ金姓でも本貫即ち先祖の本拠地が違えば赤の他人です。ですから韓国では金海の金さん、善山の金さんと違いを強調します。もちろん純金と十八金ほどの違いがあるわけではありませんが……。
同じく、李さんも慶州の李であったり、全州、韓山、永川の李であったりと本貫が多様です。韓国の時代劇に出てくる朝鮮王朝の王様は全州の李です。李さんで本貫が全州なら王様の血筋ですから世が世なら頭ずが高いといわれるかもしれません。
私が成長してはじめて韓国に行ったときのことです。偶然権と名乗る女性にあって日本から同じ血筋の子が来たというので大歓迎されましたが、その後がいけません。
「ところであなたの本貫はどこなの?」と聞かれた私が「本貫て何ですか?」と返したとたん、いとおしい表情で接していた彼女の顔が見る見るうちに険しくなり「権の血筋にこんな下司な人を見たことない」と怒りをあらわにしました。
私はその本貫が何かを知らずキョトンとしていました。なぜ怒っているかもわからず。
彼女は由緒ある権の姓を名乗る青年がその始祖もわからずにいるのが許せなかったのです。ゴンの風上にも置けなかったのでしょう。後にこの屈辱がトラウマになって私は韓国人以上に韓国の姓について勉強するようになりましたが……。
韓国では約束をするときよく「姓に誓って守る」「約束を守らなければ姓を変える」と言うほど姓を大切にします。それは自分の「血筋」であり「出処」を証明するからです。それを日本の植民地時代に朝鮮人を戦争に動員するため、栄えある日本の姓を名乗らせてあげれば喜ぶと思い「創氏改名」を行いましたが、その効果はなく最後には強制するしかなかったのです。よしんば良かれとしたことでも、相手の実情を知らなければありがた迷惑です。
血筋を大切にすることについては梶山季之氏の『族譜』によく描かれています。
見た目が特に似ており区別のつきにくいと言われる日韓ですら、相手の実情を知らないとこのような行き違いが誤解を生み憎しみを増幅させます。
好意でしたことが相手に受け入れられなければ、その期待感(感謝してもらえる)があるだけになおさら腹ただしくなります。これは双方に言えることですので、親しいが故に起こる「近親憎悪」にならないよう心がけるべきです。
●もっと韓国を知るためのことば
「ヤクソグル アン チキミョン ソンウル カルゲッタ」 約束を守らなければ姓を変える
韓国人にとって苗字は何物にも代えられない存在の印であり、由緒ある家柄を証明するもので絶対変えられないものです。ですから、姓を変えるということは「ありえない」ので、この約束は「間違いない」ということを意味していますが、現実においては必ずしもそうではないようです。
※文=権鎔大(ゴン・ヨンデ)韓日気質比較研究会代表の寄稿。ソウル大学史学科卒業、同新聞大学院修了。出典=『あなたは本当に「韓国」を知っている?』(著者/権鎔大 発行/駿河台出版社)
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