左から映画プロデューサーのチェ・ジェウォン氏、俳優ソン・ガンホ
左から映画プロデューサーのチェ・ジェウォン氏、俳優ソン・ガンホ
2014年に韓国で観客動員数1100万人突破の記録的大ヒットとなり、「第35回青龍映画賞」「大鐘賞」など韓国内の映画賞を席巻し、20冠を獲得した「弁護人」。11月12日(土)より劇場公開されるのに先立ち、同作で主演を務めた俳優ソン・ガンホが来日し、11日(金)都内にて記者会見を行った。

ソン・ガンホ の最新ニュースまとめ

 同作は、1981年9月、国家保安法違反の容疑で、学生らが不当に逮捕された「釜林(プリム)事件」と、この事件を担当したことがきっかけで、人権派弁護士へと転身した故・盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領の実話が基になっている。

 本作で、盧武鉉元大統領をモデルにした、国家に一人で立ち向かう孤高の弁護士ソン・ウソクを演じたソン・ガンホ。彼は、「第89回米国アカデミー賞」外国語映画賞の韓国代表作品に選出された「密偵」(原題)の日本公開も2017年に予定され、韓国初の主演作累計観客動員数が1億人を突破という偉業を達成したことで話題となったばかり。さらに、「グエムル -漢江の怪物-」以来10年ぶりの来日とあって、会見場には多くの報道陣が詰め掛け、関心の高さをうかがわせた。

 映画プロデューサー、チェ・ジェウォン氏と共に登壇し、大きな拍手で迎えられたソン・ガンホは、「10年ぶりの来日ということで、この日を首を長くして待っていました!」という司会者の言葉に、日本語で「ありがとうございます」とニッコリ。
続けて、「10年ぶりにごあいさつできて、本当に光栄でうれしく思っています。どうしてブランクが長くなってしまったのか分かりませんが、今回は意味のある作品でごあいさつできて、格別な思いです」とあいさつし、質疑応答がスタートした。


<B>―本作は韓国で大ヒットし、日本でもSNSなどで「早く見たい」などと話題になっていますが、ついに明日から公開です。いまどんな心境ですか?</b>
チェ・ジェウォンプロデューサー(以下、チェ):ソン・ガンホさんの10年ぶりの来日ということもあると思いますが、これほど(記者会見に)大勢の方が来てくださるとは思っていなかったので、ありがたく思っています。「弁護人」は数年前に韓国で公開されましたが、時間が経ったいま、こうして日本に来たのも、「弁護人」に対する格別な愛情を持っているからです。米国ではトランプ大統領が誕生したこの時期に、この映画を上映していただくことになりましたが、韓国と日本の国民の皆さんがもう一度、自分たちの生きている姿を振り返り、いろいろなことを考えられる、意味のある映画だと思います。そのような考えを皆さんと共有したいし、この映画がその一助になればと思っています。
ソン・ガンホ(以下、ソン):皆さんもご存じかと思いますが、いま韓国情勢は混乱し、非常に残念な状況にあるんですが、そういう時期に「弁護人」はたくさんのことを提示してくれるし、いまこそたくさんのことを提示できる時期ではないかと思います。それと、最後は残念な形でお亡くなりになられましたが、盧武鉉元大統領の若い頃が描かれている作品です。人生に向き合う姿勢、身を粉にして献身する姿勢をこの映画を通して、改めてご覧いただき、また韓国人に限らず、日本、中国の皆さんと共有できる映画であり、非常に意味のある作品なので、この作品を通して、私たちと同じ気持ちを感じ取っていただけるのではないかと思います。

<B>―この作品で盧武鉉元大統領を演じられましたが、演じる上で意識されたことはありますか?</b>
ソン:最初にオファーをいただいたとき、怖いと感じました。残念な最後を遂げられた、いまは亡き盧武鉉元大統領のことをいまでも愛し、恋しがっていらっしゃる国民の多くの皆さん、そしてご家族が見守っているからです。だから、彼の人生の一部を迷惑を掛けず、しっかり演じられるだろうか、という俳優としての悩みがありました。でも、至らなくても、真心を込めて演じれば皆さんと心を触れ合わせることができると思い、勇気を出して演じました。

<B>―弁護士の役は初めてということでしたが、ご苦労などはありましたか?</b>
ソン:専門的な職業だったので、やはり苦労はありました。法廷用語もありましたし、セリフの数も膨大だったので、大変でした。そして、公判のシーンが全部で5回あるんですが、それぞれ違ったリズム感を持っていますし、それぞれの特色があるので、それを立体的に出すために、差別化して演じるということが非常に難しくて悩みました。それで、セットに数日前に入り、第一次の公判から第五次の公判まで一人で練習したのを覚えています。

<B>―劇中、テジクッパ(豚肉スープご飯)を食べるシーンが出てきますが、ソン・ガンホさんのお肉が少ないように見えました。あの店は実在するお店ですか?それとも映画のために作られたお店ですか?</b>
ソン:テジクッパは釜山を代表する、とても庶民的でおいしい食べ物なので、映画の中で紹介されています。でも、私自身は苦手で食べられないので、よく見ていただくと、私の器にはほとんどお肉が入っていませんでした(笑)。お店自体は架空なんですが、最初は代金を払わず、何年か経ってからもう一度行き、代金を支払ったというエピソードは事実です。

<B>―後半の裁判のシーンはものすごく迫力があり、それはソン・ガンホさんの迫真の演技があったからだったと思います。どんな思いで演じられましたか?</b>
ソン:先ほど、公判のシーンは一人で練習したと申し上げましたが、あのシーンはどう演じたらいいのか、何日も考え抜きました。そうしているうちに、あのシーンにおける感情やリズムが自然と身に付いたのではないかと。あのシーンは、テクニックではなく、あの時代を生き抜いた盧武鉉元大統領をはじめ、多くの韓国国民が望んでいた民主主義に対する思いが込められていたので、そんな熱い思いが、自然と湧き上がってきたのではないかと思います。そして、裁判シーンと同じにように、実際に盧武鉉元大統領が無視されたり、相当つらい目に遭ったりしていましたし、モハメド・アリのボクシングのシーンをセリフで言っていましたが、あのくだりも実際にお話しになったことを取り入れています。そのときの気持ちというのは、私があの時代を生きてきたソン・ガンホという役者の気持ちと折り重なるような形で、あのシーンに現れていたのではないかと思います。

<B>―ラストシーンも印象的ですが、どんな思いで演じられましたか?</b>
ソン:ラストシーンが終わってから、字幕にも、当時同僚の弁護士が何人いて、何人が裁判に参加したというのが出てきますが、あの数字は事実に基づいています。そして、一人ずつ起立したというのも事実です。映画を見ると、映画なのかなと思いますが、本当にこれが現実にあったことなんだということを思い知らされました。盧武鉉元大統領が生前、目指していたことがいまになって大勢の方の心に届き、皆さんが共感してくださっているのだと思いました。それが感じられるのが、あのラストシーンだと思います。演じるにあたっては、最大限寂しくて、悲しい気持ちも抱えていて、とてもつらい状況にある姿を表現したいという思いで演じました。

<B>―ヤン・ウソク監督は、本作で初めてメガホンを取り、ソン・ガンホさんよりも年下ですが、監督とはどのような話をされましたか?</b>
ソン:驚いたことがあったんですが、監督にお会いしたとき、この映画のストーリーをいつの時点で構想したのかを聞いたんですよ。もし、盧武鉉元大統領が亡くなられた後に考えていたとしたら、ちょっとガッカリしたと思うんですが、監督がこの映画を構想したのは、1990年代の初めの頃だと答えたんです。そして、「いつか自分が映画監督になったら、ぜひ映画にしたいと思っていた」と言われたので、大きな感動を覚えました。監督の中では、政治的な背景があったわけではなく、この時代を描くだけでも、映画として感動を与えられると思っていらっしゃったんだということが分かりました。

<B>―「弁護人」に限らず、普段は演技をするとき、どのような点を重要視されていますか?</b>
ソン:必ず真心を込めて、真実を込めて表現をしなければいけないという思いで演じています。

<B>―ここ数年で、さらに演技への深みが増してきたように感じますが、長いキャリアの中で、演じるということに対する考え方や姿勢が変わったという点はありますか。</b>
ソン:自然と年を重ねてきましたが、人生全体を鑑賞するような、見渡すような視点が生まれてくるんですね。人生にはいろいろな時期があると思うんですが、闘争している時期があったり、大きな声を上げて叫んでいるような時期があったとすると、いまは少しずつ世の中、人生のことを見渡すような傾向にある気がします。人生に寄り添って見守っているような立ち位置にいると思います。
チェ:初めてソン・ガンホさんとお仕事したのは、「殺人の追憶」だったんですが、そのときは本当に演技の上手い俳優さんだなと思っていました。その後、数々の作品に出演し、月日が流れていく中、いまは映画全体を見渡せる視点をお持ちだと思います。自分のことだけを考えて演じるのではなく、共演者との調和も考えながら演じたり、映画の方向性も提示してくださる俳優さんです。「弁護人」、そして「密偵」でご一緒して、そう感じました。作品を撮るたびに、その年輪が深みとなって、刻まれていくような俳優さんだと思います。私の立場から言いますと、世界のどこに出しても恥ずかしくない俳優だという自負心を持っています。
ソン:(日本語で)ありがとうございます。

<B>―「密偵」も750万人を突破し、韓国では主演俳優として初の累計観客数1億人を記録したということで、おめでとうございます!それを聞いてどんなお気持ちでしたか?</b>
ソン:俳優としては、観客数のことを計算しながら作品を選んだり、演技をしたりしていないので、その数字もある記者が面白がって、まとめてくださったのだと思います。映画の広報を担当しているチームが、それを上手く記事にされたんじゃないかと思います。決して、私がこの数字を出してくださいと言ったわけではありません(笑)。

<B>―チェプロデューサーが知っている、ソン・ガンホさんの意外な一面がありましたら教えてください。</b>
チェ:たくさんありますよ(笑)。映画というのは、私がプロデューサーなので、それを除くと、監督、シナリオ、俳優という3つの要素が必要です。私はソン・ガンホさんと作品を撮ってきて十数年が経ち、いまは友人としてお会いしていますが、彼は映画を作る作業において、その3つの要素の単なる1つではなく、パートナーだなということを強く感じています。今回、新人監督でしたが、感動的な作品になるのは、主演俳優がどれだけ見事な演技を披露しているかにかかってくると思います。後に、「密偵」をご覧いただくと、また何か感じることがあると思いますが、ソン・ガンホさんは淡々と、時には熱い表現で演じています。日本の方に見ていただいても恥ずかしくない作品が出来上がったと思っています。その反面、ソン・ガンホさんは繊細なところがあり、感傷的な面もあります。見た目には骨太に見えるかもしれませんが、誰もが見過ごしてしまうような部分に、敏感に反応されるときがあるので、緊張しながら世の中を見渡しているんだなと感じることがあります。私としては、ソン・ガンホさんがいない現場に行ったときは、心身ともに楽なんですが、彼の現場に行くと緊張してしまう、ということがよくあります。それから、ソン・ガンホさんは日本のビールが大好きです(笑)。

<B>―この映画を通して、伝えたいメッセージは何ですか?</b>
ソン:盧武鉉元大統領の政治哲学や、政治家としての姿を語ろうという映画ではなく、暗黒の時代を生きた、その中で新しい軍部独裁政権がスタートしたあの時代を生きた姿を描いていると思います。かなり耐えきれない圧力があった時代に、若者が真摯な気持ちで人生と向き合い、献身する姿が描かれていますので、それが多くの人々の気持ちを揺さぶったのではないでしょうか。それを描くのが、この映画の究極的な目標だったと思います。それが、観客の皆さんにもしっかり伝わったと思います。


 どの質問にも真摯に、身振り手振りを加えながら丁寧に答えていたソン・ガンホ。「隣の国の映画ですが、日本の皆さんにも共感していただける映画だと思います。たくさんの声援をお願いします!そして、たくさんご覧ください!」とPRし、10年ぶりの来日会見を締めくくった。

 社会派ヒューマンドラマ「弁護人」は、11月12日(土)より新宿シネマカリテほかにて全国順次公開!


「弁護人」ソン・ガンホ来日記者会見登壇!
「弁護人」ソン・ガンホ来日記者会見登壇!




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