【合同インタビュー】大ヒット作「7番房の奇跡」に続く最新作「偽りの隣人」のイ・ファンギョン監督、俳優チョン・ウ×オ・ダルスと2作目のタッグ「キャストのアンサンブルが大事」(画像提供:wowkorea)
【合同インタビュー】大ヒット作「7番房の奇跡」に続く最新作「偽りの隣人」のイ・ファンギョン監督、俳優チョン・ウ×オ・ダルスと2作目のタッグ「キャストのアンサンブルが大事」(画像提供:wowkorea)
韓国歴代興行収入10位、日本でも親子愛に号泣する観客が続出したヒット作「7番房の奇跡」(2013)のイ・ファンギョン監督の待望の最新作「偽りの隣人 ある諜報員の告白」が、日本でもいよいよ9月17日(金)より上映される。

韓国映画「偽りの隣人 ある諜報員の告白」のキャスト、公開日、あらすじ

本作は1985年、軍事政権下の韓国で、民主化を求め、自宅軟禁された政治家と監視する諜報員の“正義”を描く社会派ヒューマンサスペンス。韓国現代史における軍事独裁政権と民主化運動の対立をモチーフにした社会派ドラマではあるが、イ・ファンギョン監督らしい心に浸みるヒューマンドラマに仕上がっている。

国家に誠を誓い、家族にも極秘で国家安全政策部の熱血職員として身を粉にするユ・デグォンを演じるのは、ドラマ「応答せよ1994」で大ブレイクしたチョン・ウ。一方、やわらかな笑顔で信念を貫き、圧政に耐える国民を思い続ける政治家イ・ウィシクは、「7番房の奇跡」に続いての出演となる名優オ・ダルスが演じる。脇を固めるキャストも、韓国リメイク版「スマホを落としただけなのに」に出演するキム・ヒウォン、大ヒットドラマ「SKYキャッスル~上流階級の妻たち~」のキム・ビョンチョルら個性的な実力派が集結。また、1985年頃のソウルの街並みやファッションを再現したレトロさや、庶民的な韓国料理も見どころのひとつだ。

そんな本作の日本上映を前に、イ・ファンギョン監督がリモートインタビューで、縁を大事にするキャスティング秘話や撮影でこだわったことなど本作への思いを語った。


Q.この映画を作ろうと思ったきっかけを教えてください。

韓国の映画の観客は一般的な男女の恋愛モノ、ホラーやスリラーも好きですが、一方では政治的な映画も好む傾向があります。そこで、私が得意とするヒューマンドラマ、またコメディ的なストーリーをノーマルに伝えるのではなく、メッセージ性を込めた物語として何か作れないかと考えて企画したのが始まりでした。


Q.本作では政治的な重みとコミカルな要素、どのようにバランスをとりましたか?

私が作る作品の特性上、私が追い求めているものは、どんなに重いテーマであっても、気楽に温かい気持ちで楽しく笑えるような作品を観客の皆さんにどう届けるかということです。政治的な物語というのは、妙な緊張感があり、アイロニーが漂っているモチーフが多いような気がしますが、私ならそのままドキュメンタリー化せず、自分の長所でもあるヒューマンドラマやコメディで、そのようなアイロニーにアプローチしたら、面白い物語が新しく構成できると以前から思っていたので、そういう部分のバランスを上手くとろうと思いました。結果的に政治的な部分とヒューマン、コメディを半々ではなく、4対6か、3対7ぐらいでヒューマン、コメディの部分が多かったと思いますし、そのような割合になるよう努力しました。


Q.監督らしい温かみが感じられる作品ですが、こだわった点を教えてください。

一番大事なのは、キャスティングだと思いました。温かい心を伝えることができる俳優たちのアンサンブルが何よりも重要で、そのアンサンブルを通して、1985年の世の中を見せるため、美術のセットにもこだわりました。


Q.1985年当時を再現するにあたって、大変だったことなどはありますか?

当時、私は中学生でしたが、そのとき流行っていた音楽や美術など、そういうものには特に気を遣いました。中でも、劇中で「クルクル」という歌をそのまま使いましたが、当時は禁止曲でした。理由はクルクル回って人を惑わしているからだと聞きました。当時も理解できませんでしたが、今考えてもなおさら理解できない、アイロニーで、ある意味コメディとも思える笑えるような話でもあったと思います。そういう事例が1985年頃にはたくさんあり、当時を思い出すと、楽しい思い出もありますが、息苦しいようなもどかしい気持ちにもなります。そして、当時は気付きませんでしたが、今振り返ってみると、“あの頃こういうことがあったから、あんな風に抑圧されていて、もどかしかったんだな”と理解できるような気がしました。観客の皆さんにも、“あの頃はこういうことがあったなぁ”と思い出を覗き込んでほしいと思いました。


Q.主人公を演じた俳優チョン・ウさんとは、2004年のソン・スンホンさん主演「あいつはカッコよかった」以来、2度目のタッグとなりますが、チョン・ウさんをキャスティングされた理由を教えてください。

チョン・ウさんは「あいつはカッコよかった」のオーディションで私が見出し、デビューとなりましたが、会ったとき、“いや~、本当に面白い俳優だな”、“一般的な俳優ではないな”と思うくらい猪突猛進的なところがあり、アイディアが豊富でした。なので、新人ではありましたが、助演クラスの大きな役をお任せしました。その後もチョン・ウさんとはたくさん話を交わし、仲良くなっていき、一緒にご飯を食べたりお酒を飲んだりして過ごしていましたが、その間もチョン・ウさんに合う役、適役はないだろうかとずっと考えていました。それで今回の「偽りの隣人」を構想する中で、チョン・ウさんと話をしながら、主人公が彼にぴったり合うのではないかと思いました。


Q.監督から見たチョン・ウさんの俳優としての魅力というと?

スポンジとでも言いましょうか。例えば、赤い絵の具を垂らしたら、すぐ赤く染まるし、黄色い絵の具を垂らしたらすぐ黄色く染まるような本当に吸収力のあるスポンジのような俳優です。そして、一つ投げかけると、すぐにフィードバックをしてくれるし、すぐに感情に入り込んで、難易度の高い演技も見事にこなしてくれるステキな俳優だと思います。


Q.では、もう一人の主人公を演じたオ・ダルスさんも、前作「7番房の奇跡」に続いての出演となりますが、起用理由を教えてください。

「7番房の奇跡」では組織暴力団員の役でしたが、これまでオ・ダルスさんはコメディや軽い役、誰かを裏切ったり、詐欺師だったり、そういう役が多く、それも悪くはないんですが、新しい姿を見せられる役があったらいいなと考えていました。それで、大統領役もやってみる価値があるのではないかと。他の人が考えもしなかった、監督ならではの意地と言いますか、絶対やってほしい、きっと新しい姿を見せてくれるだろうという強い気持ちがありました。オ・ダルスさんなら、きっとこの役を上手くこなしてくれるだろうという信頼もありましたし、周りにも話したところ、私の考えを支持してくださる方が多かったので、最終的にイ・ウィシク役をお願いすることになりました。


Q.撮影で印象に残っていることは?

オ・ダルスさんとの面白いエピソードなんですが、オ・ダルスさんはマッコリが大好きで、撮影中は毎日、一日も欠かさず飲んでいました。他の俳優たちも交え、一緒に飲みながら、その日の反省や明日の撮影をどうするかという話をよくしていました。制作会社の代表とも、一日も欠かさず飲みながら語り合っていた姿が記憶に残っています。そんな撮影現場でしたので、お酒の席での楽しい姿も映画の中に溶け込んでいると思います。オ・ダルスさん自身がとても面白い方ですので、シリアスな演技であるにもかかわらず、思わず笑ってしまって、笑いをこらえることもよくありました。それくらい楽しい演技をたくさん見せてくださったんですが、シリアスな役でしたので、面白さを少し押さえるようにしました。


Q.「7番房の奇跡」もそうでしたが、今作「偽りの隣人」でも劇中の登場人物の名前が監督の家族や知人の名前だそうですが。

そうですね。「7番房の奇跡」のイェスンは私の娘の名前でして、リュ・スンリョンさんが演じたヨングは親友の名前でした。今回の「偽りの隣人」ではイ・ウィシク(オ・ダルス)は私の父の名前で、イ・ウィシクの妻ク・ヨンジャ(キム・ソンギョン)は母の名前、イ・ウィシクの息子イェジュンは私の2番目の息子の名前になります。それから、ユ・デグォン(チョン・ウ)は子供の頃からの親友の名前です。


Q.そのように周りの方を登場人物の役名にする理由というのは?

シナリオやキャラクターを考えるとき、名前を付けるのが本当に毎回大変だからです。なので、自分にとって気楽な人たち、それから私の頭の中でよく動いてくれそうな人たちの名前をよく使うんですが、その中でも、家族の物語が多いので、自分の家族の名前を使うというわけです。韓国のインタビューで記者の方に、「家族の皆さん、さぞかし喜ぶでしょうね」と言われたんですが、実際のところ家族たちはあまり喜んでいません(笑)。とはいえ、私は無理やりにでも使うと言いました。そうすることで、いい作品が生まれるからと。自分の一番近くにいる家族にとって癒しになる、楽しく見られる映画になってこそ、たくさんの観客の方とも通じ合うことができると信じているので、家族の名を懸けて、いい映画を作ろうという思いで、周りの名前を使うようになりました。今回は唯一、父だけが大統領の名前に使ったので、私も気分が良かったんですが、父も感謝していると言ってくれました(笑)。


Q.今作で家族の名前をほとんど使われたと思いますが、今後はどうされるんでしょうか?

そうなんです、それでいま悩んでいるところなんです(笑)。今度は妻側の家族たちの名前を借りようかなと思っています。


Q.劇中、食事シーンもたびたび登場しますが、何か意図があってのことでしょうか?

この映画は政治家を監視する盗聴要員たちの物語なので、おぞましく怖い、政治的な物語としてもっと踏み込める物語ではありました。ただ、そう見せたくない気持ちが強く、人間の基本的な欲求であるおいしいものを食べたり、排泄したり、という姿から感じられる人の情をナチュラルに見せたいと思い、食事のシーンをふんだんに入れました。食事だけでなく、トイレのシーンも何度か出てきますが、人間の本来の姿を2人の主人公を通して見せたいと思いました。


Q.監督自身のお気に入り、思い入れの強いシーンを教えてください。

俳優たちのアンサンブルがまさに秀でているなと思ったのが、かくれんぼのシーンです。ヨム・ヘランさんをはじめ、キム・ビョンチョルさん、チョ・ヒョンチョルさんの3人がかくれんぼをするように、片方が隠れてはもう片方が出てくる、というシーンがとても記憶に残っています。このシーンを撮るために、何日も俳優たちと練習を重ねたことを覚えています。それから、ベストシーンの一つといえばエンディングシーンです。オ・ダルスさんとチョン・ウさんが銭湯で再会し、食事をしたかどうかを聞くシーンが、私にとってはNo.1の名シーンです。


Q.今後、監督が一緒に映画を撮ってみたい俳優はいらっしゃいますか?

特定の誰かというより、これまでご一緒してきた方たちは皆さん、才気にあふれ、演技が達者な方ばかりなので、これからもまたご一緒したいなと思っています。そこにプラスして、会ってみたいのは心が温かくて優しい、お人柄のいい俳優たち。そういう方たちは映画の中でも、ステキな姿を表現できると思うからです。私の作品はヒューマン、感動、コメディを求めるような作品ですので、そういう俳優なら、役のキャラクターとも上手く交わって、映画の中でキレイな花を咲かせてくれると思います。


Q.コロナ禍での上映となりますが、この映画を通して、日本の観客に伝えたいこと、メッセージをお願いします。

韓国でも公開された当時、ソーシャルディスタンスの確保をし、席数もだいぶ減らして上映されました。そのような状況でしたので、一人で見に行って笑うと、隣の方に失礼になるのではないか、そして、マスクをした状態でしたので、泣きたくても気楽に泣けないような状況になってしまいました。この映画は、本来でしたら誰かと一緒に気持ちを通わせて見るべき作品なんですが、それが叶わなくて残念でした。
日本の方にも、少しでも誰かと気持ちを通わせながら、見てもらうことができたらいいなと思います。この映画は隣人の話ではありますが、コロナ禍で世の中が断絶されているような状況なので、また以前のような姿に戻りたい、みんなでまた一緒に手をつないで映画を見られるような世界に早く戻ってほしいという気持ちで、企画を立ち上げました。そういう意味で、この映画は現在のパンデミックを突破できるいい映画ではないかと思いますので、ぜひ日本の皆さんにもたくさん見てほしいと思います。そして、この映画を見ることによって、私の隣にも自分のことを思ってくれる人がいるし、私も頼れる隣人がいるということを考えながら、このコロナの状況をなんとか乗り切ってほしいです。日本でオリンピック・パラリンピックが開催されましたが、選手の皆さんの素晴らしい心意気と頑張っている姿を称えつつ、この「偽りの隣人」も見ていただき、幸せな気持ちになってほしいと思います。



偽りの隣人(ロングバージョン)
偽りの隣人(ロングバージョン)




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