<W解説>韓国の豪雨災害で改めてクローズアップされることになった「半地下」(画像提供:wowkorea)
<W解説>韓国の豪雨災害で改めてクローズアップされることになった「半地下」(画像提供:wowkorea)
韓国の首都圏を中心に、今月8日から降った記録的な豪雨では、ソウル市内の半地下住宅で暮らす3人も犠牲となった。半地下で暮らす人々の様子は、2020年に米アカデミー作品賞を受賞した韓国映画「パラサイト 半地下の家族」でも描かれたが、韓国メディアは「現実は映画『パラサイト』より過酷だった」(朝鮮日報)として、浸水した住宅から避難できずに死亡した住民たちの悲劇を伝えている。

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 停滞する前線の影響で、韓国は8日からソウルなど首都圏を中心に大雨が降り、甚大な被害が出た。ソウル市トンジャク(銅雀)区では8日夜、1時間に141.5ミリの猛烈な雨を観測。これまで最高だった1842年8月に観測された1時間に118.6ミリの降雨量を80年ぶりに上回った。また、1時間あたりの雨量が136ミリを超えた地域もあり、韓国メディアは「115年の観測史上、最大規模の記録的大雨」と伝えている。各地で浸水被害が発生し、鉄道も一部は運休するなど交通機関にも影響が出た。

 今回の豪雨では、ソウル市クァナク(冠岳)区シルリム(新林)洞にある低層集合住宅の半地下の部屋で暮らしていた小学校6年の子供とその母親、一緒に暮らしていた叔母が死亡したほか、銅雀区サンド(上道)洞の半地下部屋に住んでいた50代の女性も犠牲になった。朝鮮日報は「今回の集中豪雨は、月家賃や高額のチョンセ(契約時にまとまった額の保証金を賃貸人に預け、月家賃がない不動産賃貸方式)金を支払うのが難しく、半地下部屋や作りがしっかりしていない家が多い地域で暮らす低所得者層に特に甚大な被害をもたらした」と指摘した。

 同紙によると、死亡した6年生の子供と母親、叔母は約66平方メートル(約20坪)の半地下部屋で生活していたという。祖母も含めた4人暮らしだったが、祖母は体調が悪く当時は検査入院中で難を逃れた。3人がいた部屋の一帯は8日の午後8時ころには浸水した。3人は脱出を試みたというが、水圧でドアを開けることができなかったという。救出を試みようとした近隣住民たちも、やはり水圧により窓を外せなかった。警察と消防が救助に駆け付けた午後9時半ころには水かさが更に増して近づくのが難しい状況になっていたという。3人は9日午前0時半ころ、遺体で発見された。一家が暮らしていた地域は、半地下がある低層集合住宅が密集している。

 半地下住宅で暮らす人々の様子は、2019年公開のポン・ジュノ監督の韓国映画「パラサイト 半地下の家族」で描かれた。ソウルの半地下住宅で暮らす4人の家族が上流家庭に潜り込むというところからストーリーが展開。深刻な韓国の格差社会を描いた作品として、日本を含む海外でも話題を呼んだ。また、韓国では「貧困層」を指す言葉として浸透している「半地下」という言葉が、この作品を通じて海外の人たちにも知られるようにもなった。作品は米アカデミー作品賞のほか、カンヌ国際映画祭では最高賞のパルムドールを受賞した。

 「パラサイト 半地下の家族」が世界的に話題となった作品だっただけに、海外メディアは今回の豪雨を「半地下」に焦点を当てて報じている。英国の公共放送BBCは新林洞の親子と叔母の3人の死を伝える中で「(3人は)『パラサイト 半地下の家族』に登場して有名になった、街の下に位置するアパートの『半地下(banjiha)』に住んでいた」と補足した。また「これまでソウルで洪水の被害を受けてきた『半地下』の住居に対する懸念が高まった」とも報じた。カタールの衛星テレビ局「アル・ジャジーラ」は今回の豪雨被害を伝えつつ、半地下の住居について「ポン・ジュノ監督のオスカー(アカデミー賞)受賞映画『パラサイト』で描かれた狭い地下層」と解説した。

 ソウル市には全世帯の5%に当たる約20万戸の地下・半地下住宅が存在する。ユン・ソギョル(尹錫悦)大統領は9日に現場を訪れた際、社会的弱者であるほど、災害時に最も脆弱(ぜいじゃく)となる現実を指摘。「彼らが安全であってこそ、初めて大韓民国が安全になる」と述べた。

 ソウル市は10日、今後、地下や半地下に住居を構えることを不許可とする方向で政府と協議を進めていくことを発表した。

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