<W解説>韓国で物議を醸している、高校生が制作した尹錫悦大統領の風刺画(画像提供:wowkorea)
<W解説>韓国で物議を醸している、高校生が制作した尹錫悦大統領の風刺画(画像提供:wowkorea)
韓国で、ユン・ソギョル(尹錫悦)大統領を風刺した、高校生による漫画作品が物議を醸している。作品は全国学制漫画公募展に出品され、金賞を受賞したが、公募展を後援する文化体育観光部(部は省に相当)は今月4日、「公募展の趣旨に合わない作品を(受賞作として)選定した」として、公募展を主催した漫画映像振興院に厳重に警告。一方、韓国漫画家協会と韓国ウェブトゥーン作家協会は7日、「漫画家たちは表現の自由を侵害された」などとする声明を発表。警告と行政処分の予告を撤回するよう求めるなど、反発している。

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 物議を醸している作品は、尹大統領の顔をした列車が走り、運転席にはキム・ゴンヒ(金建希)夫人を表現したと思われる女性がいて、大統領を「操っている」かのような印象を与える。その後ろには検事とみられる男性たちが刀を振りかざしている。尹氏は元検事総長だ。迫りくるこの列車に逃げ惑う民衆も描かれている。

 「ユン・ソクヨル(ユン・ソギョル)チャ」というタイトルのこの作品は、先月行われた「第23回全国学生漫画コンテスト」で最高賞の金賞を受賞した。「ヨルチャ」は韓国語で「列車」を意味し、尹氏の名「ソクヨル(ソギョル)」と掛け合わせている。今月3日まで開かれた「第23回フチョン(富川)国際漫画フェスティバル」で展示された。

 作品が報道されるや、文化体育観光部は4日、声明を発表。「振興院が中高生を対象に主催した全国学生漫画公募展において、政治的なテーマを露骨に含めた作品を賞に選定し、展示したことは、学生の漫画の創作意欲をかきたてようとする行事の趣旨に反しており、遺憾。厳重注意する」とした。公募展は韓国政府から後援を受けており、文化体育観光部は今後、後援を取り消すこともあり得ると警告した。

 作品を描いた高校生が在籍する高校には、誹謗中傷の電話が多数寄せられた一方、激励の電話もあるという。

 こうした中、この作品が英国の風刺漫画を盗作した疑いも浮上し、事態がさらに大きくなっている。2019年に英国の日刊紙ザ・サンに掲載された漫評「英国首相列車」に酷似しているとの指摘がある。この漫評は当時の英国のジョンソン首相の顔をした汽車と、汽車の上に米国のトランプ前大統領とみられる人物が石炭を投入する様子が描かれている。ジョンソン氏は欧州連合(EU)離脱を強行するため総選挙の前倒しに乗り出したが、漫画はこれを批判するものだった。

 4日に行われた韓国国会法制司法委員会の国政監査でも、「尹錫悦列車」について取り上げられ、与党「国民の力」の議員は「文化体育観光部は政治色が深刻だと指摘したが、本質的問題は生徒が盗作したこと。表現の自由の問題ではなく、盗作疑惑のせいで批判が高まっている」と指摘した。盗作と認められれば、受賞が取り消される可能性もある。

 制作した生徒が盗作と認めているか否かは明らかになっていないが、似ていると指摘されている「英国首相列車」の原作者である英国の漫画家スティーブ・ブライト氏は、高校生の作品について「絶対盗作ではない」と断言した。韓国で活動する英国のフリージャーナリストの取材に答えたもので、ブライト氏は「作品に表れた類似性は偶然の一致にすぎず、意図したものではない。偶然の一致は漫画界では常に起きる。私の視点から見ると、生徒に誤った点は全くなく、ペンと筆を使う実力は称賛されるべきだ」としている。

 一方、社団法人「韓国民俗芸術団体総連合」は声明を発表し、「文化体育観光部がコンテストの主催者側に責任を問うとしたが、これは後援の認可を武器に、芸術家らが身動きできないようにするようなものだ」と批判した。

 現在、尹政権は低支持率に悩まされている。政府が公募展の後援の取り消しをちらつかせ、こうした表現物に敏感に反応するのも、このことと無関係ではないようにも思える。

 韓国では過去にも、当時のパク・クネ(朴槿恵)大統領の風刺画を描いた韓国人作家が、韓国警察に起訴されたことがあり、表現の自由の侵害と批判が上がった。

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