現大統領ばかりでなく前大統領夫人も在任中は何かと話題になりました。やれ公費で衣装や高級アクセサリーを買ったとか外国旅行したいがために相手国に招請状を出させたとか…。株価を操作したとか、甚だしいのは人事に介入したという(未確認にもかかわらず)大統領まがいの権力をふるっていると誠しなやかに市井の人々が信じていることです。
いろんな理由がありますが共通しているのは現前二人の大統領夫人が大統領を尻に引いて「いた」、又は「いる」と思われている事です。歴代の大統領夫人で旦那よりもパワーがあると噂された夫人はいませんでした。みな控えめに内助の功で大統領を支えていました。チョン・ドゥファン(全斗煥)大統領夫人を除いては。夫人については当時(1981~87年)こんな小話がはやりました。
”この国で誰が一番偉いか”
韓国社会では大卒でなければ一人前に扱われない風潮がありました(今でも)。大学卒業したら与えられる位が「学士」でその上が「博士」。しかし博士より偉い位がありました。(普通はあり得ませんが)長く政権を独占してきた軍人のエリートである陸軍「士」官学校出身の「士」でした。その軍人を監視し取り締まっていたのが、泣く子も黙る軍の保安「司」令部。その「司」令官で絶対権力に上り詰めたのが全斗煥大統領でした。
その大統領の尻を引いた「し」が夫人イ・スンジャ(李順子)女「史」。数ある権威の「士/士/士/司/史」の中で女「史」のパワーが大韓民国で一番だという風刺でした。人事を始めどんな問題でも夫人(女史)にお願いすれば解決すると誠しなやかに噂されていました。
*余談ですが 「し」の付く職業は日韓でよく見られます。弁護士、教師、看護師などですが、日本と違うのが「運転手」です。韓国でドライバーを運転手さんと呼んでもブスッとして返事をしません。ギサニム(技師)と呼んで初めて振り返ります。念の為。
それでは本論。
では何故夫人が一番強いと言われたのか⁈ それにはこんな背景が…。
夫人の性格にもよりますが、優秀な全斗煥青年は貧しい家庭で育ち、学費のかからない陸軍士官学校に入り、頭角を現し李順子女史の父親(将軍、叔父も将軍)の目に留まりその後ろ盾と、夫人が軍人の少ない給料で切り盛りし夫の出世の為、陰ながら献身的に立ち回ったお陰で将軍、大統領にまで上り詰めたに違いありません。故にどんな強面の独裁者でも女史やチョガ(妻の実家)に足を向けて寝るわけにはいかなかったと思います。
こう私が勝手に推測するのは何も全斗煥大統領だけでなく、大なり小なり韓国ではよくある話だからです。
インフレが激しかった当時の韓国社会では夫の給料だけでは生計が成り立ちませんでした。夫人が内職したり、頼母子講(金銭の融資を目的とする仲間同士の互助の集まり)、住宅投資(アパートや土地ころがし等)などで蓄えを増やして家族を支えました。だけでなく子供を大学に行かせ立派なマンションで住み旦那の社会的な面子を保てたのも夫人の内助の功が無ければ不可能なことでした。この逞しさが韓国女性の強い理由です。
歴史的にも韓国の女性が男性に負けないパワーを持ってました。
前の項(恐るべし韓国の女性)でも述べましたが、昔の韓国の結婚制度は花嫁を迎えるのでなく、新郎が花嫁の家に行くのが習わしでした。その名残で今でも男が結婚することをジャンガカンダ(丈家<嫁の家>に行く)と言います。義理の父母(妻の両親)をジャンイン、ジャンモと呼びます。勿論子供も妻の家で育てられてましたので、妻並びにチョガ(妻家/妻の実家)の影響力は大きかったといえます。
ですから朝鮮王朝時代の権力争でも外戚が度々登場るわけです。加えて朝鮮王朝後期17世紀中盤まで女性にも遺産の相続権がありました。ですから朝鮮王朝はこの女性のパワーを抑え、儒教による(男性中心の)国家体制を確立させるための方策の1つとして、女性に「七去之悪」と言う制約を制度化しました。
次の七つの内一つでも該当すれば夫が離婚できる決まりです。
1.義父母に従順でないこと。
2.子供を産めないこと。
3.淫乱な行為をすること。
4.嫉妬すること。
5.悪い病があること。
6.お喋りが過ぎること。
7.泥棒をすること。
何とも女性に理不尽な制度でしたが、但し次の三つに該当すれば離婚をさせられないという補完装置もついていました。
1.離縁しても帰る家がない。
2.義父母の三年葬を行った。
3.財産を増やし裕福にした。
以上の要因のほかに、度重なる異民族の侵略と言うこの国の過酷な試練が韓国女性をより強くしていきます。次回はその歴史を紐解いていきます。
※権鎔大(ゴン・ヨンデ)韓日気質比較研究会代表の寄稿。ソウル大学史学科卒業、同新聞大学院修了。大韓航空訓練センター勤務。アシアナ航空の日本責任者・中国責任者として勤務。「あなたは本当に『韓国』を知っている?」の著者。
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