<W解説>韓国の梨泰院雑踏事故、行政安全部長官を弾劾訴追=今後の争点は?(画像提供:wowkorea)
<W解説>韓国の梨泰院雑踏事故、行政安全部長官を弾劾訴追=今後の争点は?(画像提供:wowkorea)
昨年10月に韓国・ソウルの繁華街、イテウォン(梨泰院)で起きた雑踏事故について、最大野党「共に民主党」が担当閣僚の責任を問うとしてイ・サンミン(李祥敏)行政安全部(部は省に相当)長官の弾劾訴追案を国旗に提出、8日、可決された。閣僚の弾劾訴追案の可決は韓国の憲政史上初めて。「共に民主党」は「悲惨な事故が起きても反省しないユン・ソギョル(尹錫悦)政権の『非常識』と『無責任』を改める第一歩」とした。一方、韓国大統領室は「議政史に恥ずべき歴史として記録されるだろう」などと反発している。

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事故は昨年10月29日、ハロウィーンを前にした週末でごった返す梨泰院の通りで起きた。現場は幅3~4メートルほどの狭い坂道で、一部の人が転倒した後、次々に折り重なるように倒れる群衆雪崩が起きた。事故では日本人2人を含む159人が死亡した。犠牲者は10代、20代の若者が多い。高校生ら約300人が犠牲となった2014年の旅客船セウォル号沈没事故以来の惨事となった。

事故を受けて、警察庁は約500人で構成する特別捜査本部を発足。警察庁や消防庁に捜索に入るなど捜査を進め、梨泰院を管轄するヨンサン(龍山)警察署のイ・イムジェ(李林宰)前署長や龍山区のパク・ヒヨン(朴熙英)区長ら23人(逮捕6人)を業務上過失致死などの容疑で送検した。

一方、行政安全部の李長官やソウル市のオ・セフン(呉世勲)市長、警察トップのユン・ヒグン(尹熙根)警察庁長らは人出の危険性に対する具体的な注意義務があったわけではないとして、「嫌疑なし」とされた。

特別捜査本部は先月13日、捜査結果を発表。管轄の自治体や警察、消防など、法令上、安全予防や対応の義務がある機関が事前の安全対策を怠るなど、事故の予防対策を取らなかったために起きた「人災」と結論付けた。

事故の捜査は終結したが、未だ不十分だと訴える遺族は多い。遺族会などは尹大統領の正式な謝罪、行政安全部の李長官の罷免などを求めてきた。

こうした中、韓国の国会では、過半数の議席を占める「共に民主党」が主導し、事故のずさんな対応を問うとして、李長官の罷免を求めて弾劾訴追案を提出した。李氏がトップの行政安全部は日本の総務省と警察庁に相当する韓国の中央行政機関。

弾劾訴追案は8日に可決された。韓国の国会では、大統領だった故ノ・ムヒョン(盧武鉉)氏、パク・クネ(朴槿恵)氏の弾劾訴追案が可決されたことはあるが、閣僚の訴追案可決は憲政史上初めて。李長官は職務停止となった。今後は憲法裁判所が罷免の可否を判断することになる。李長官はこれまで、事故への対応に問題があったと謝罪はしたものの、自身の進退については再発防止策を講じることを優先するとしてきた。弾劾訴追案が可決されたことを受け、8日にコメントを発表し、「弾劾訴追案が可決されたことで国民に心配をかけることになり、非常に残念に思う」とした上で、「行政安全部は国民から任された業務を揺らぐことなく遂行する。憲法裁判所の心理に誠実にのぞみ、早期に行政安全部が正常化するよう最善を尽くす」とした。

李長官の弾劾訴追案が可決されたことには、事故の犠牲者の遺族からも「国会が役割を果たした」と評価する声が上がっている。

一方、大統領室は「明確な理由もなく長官の弾劾に踏み切ったことは、巨大野党の暴挙だ」と反発している。大統領室は憲法裁判所で弾劾が任用される可能性は低いとみており、イ・ジンホク大統領政務首席秘書官は「憲法や法律に違反していない。このようなやり方は正しくない」と野党を批判した。

韓国紙のハンギョレ新聞は「李長官が事故対応のトップとして『重大な憲法・法律違反』を犯したかどうかが弾劾の可否を分けるカギとなる」と指摘した。野党は李長官が「すべての国民は人間として尊厳と価値を持ち、幸せを追求する権利を有する」との憲法第10条に違反していると主張している。憲法学が専門のある大学法学部教授は同紙の取材に「憲法10条は国家の責任、義務とつながる条項であり、これを宣言に過ぎないとみなした場合、憲法は死文化せざるを得ない」とした上で、「実質的な法違反も問われなければならないが、憲法が追求する『国家的責任』と現実的な状況を考慮し、この問題について厳しく責任を問う必要がある」と指摘した。また、元憲法裁判所研究官のある弁護士は「結局、李長官が重懲戒に値するほど『重大な不誠実』を犯したか否かが争点になるだろう」とした。

弾劾案が認容されるためには裁判官9人のうち、6人以上の同意が必要となる。

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