<W解説>韓国政府による報告書で明らかになった、北朝鮮の深刻な人権状況(画像提供:wowkorea)
<W解説>韓国政府による報告書で明らかになった、北朝鮮の深刻な人権状況(画像提供:wowkorea)
韓国統一部(部な省に相当)は先月31日、脱北者500人余りの証言を基に作成した北朝鮮人権報告書を公開した。韓国政府は2018年以降、報告書を内部で公開してきたが、2023年は周知を目的に、初めて一般に公開した。報告書は「公権力による恣意(しい)的な生命はく奪が行われている」と指摘しており、北朝鮮における深刻な人権侵害の状況が改めて浮き彫りとなった。

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報告書は約450ページに及び、▲市民的・政治的権利▲経済的・社会的・文化的権利▲社会的弱者▲政治犯収容所・韓国軍捕虜・拉致被害者・南北離散家族の4章からなる。公開処刑、拷問、恣意的な逮捕など、地域社会や収容所などで国家主導の人権侵害が横行している様子を詳しく取り上げている。2017年から2022年までに脱北した人たちの証言に基づいてまとめられている。

具体的には、韓国ドラマを見て広めた住民やひそかに韓国製の化粧品などを販売した住民が処刑された事例を紹介している。北朝鮮では、韓流コンテンツを「人民の精神をむしばむ社会主義の敵」とみなすキム・ジョンウン(金正恩)政権が韓国文化の流入を厳しく取り締まることを主たる目的として2020年に「反動思想文化排撃法」が制定された。内容はかなり過激なものとなっており、同法27条では「南朝鮮(韓国)の映画、録画物、編集物、図書、歌、図画、写真などを直接見たり聞いたり保管した者は5年以上15年以下の労働教化刑(懲役刑)を宣告し、コンテンツを流入させ流布した者は、無期労働教化刑(無期懲役刑)や死刑など最高刑に処す」と定めている。

また、報告書からは、女性が家庭や学校、軍隊、拘禁施設でさまざまな暴力にさらされている実態をうかがい知ることができる。2017年には自宅で踊る女性の動画が出回り、当時妊娠6か月だったこの女性は故キム・イルソン(金日成)主席の肖像画を指さすしぐさが問題視され、公開処刑されたという。

報告書はほかにも、政治犯収容所の被収容者に対する処刑や強制労働が行われており、韓国軍捕虜や拉致被害者、朝鮮戦争などで生き別れとなった離散家族は監視と差別に苦しめられていると、深刻な人権侵害の実態を伝えている。

報告書は2016年に施行された北朝鮮人権法に基づいて作成されてきたが、北朝鮮との対話を重視したムン・ジェイン(文在寅)前政権では非公開とされ、公表は今回が初めて。統一部のクォン・ヨンセ長官は巻頭言で「報告書が北朝鮮当局の意味のある態度変化と責任ある行動を引き出す役割を果たすよう望んでいる」とした上で、「北の住民が人間的な暮らしを享受できる日まで、国際社会と連帯、協力して人権の改善へ揺るぎなく歩んでいく」と強調した。

ユン・ソギョル(尹錫悦)大統領も人権問題で北朝鮮に圧力を強める姿勢を鮮明にしており、先月28日の閣議の冒頭、「北の住民に対する人権侵害は、国際社会に明らかにされるべきだ」と述べ、報告書を公開する意義を強調していた。

統一部は、今回初めて一般公開した報告書に関するさまざまな広報コンテンツを制作する予定だと発表した。具体的には、英語版を発刊して、北朝鮮の人権問題に関して国際社会と情報を共有することなどを計画している。

また、韓国はこのほど、国連人権理事会に提出された北朝鮮の人権侵害を非難する決議案に共同提案国として加わった。文前政権下では共同提案に加わっておらず、5年ぶりの復帰となった。復帰について、韓国外交部(外務省に相当)のイム・スソク報道官は「自由、民主主義、平和など普遍的な価値を重視し、グローバル中枢国家の実現を目指している韓国の立場と基調が反映された」と説明した。

決議案はスウェーデンが欧州連合(EU)を代表して2月21日付で提出した。例年と同様、EUが中心となって作成、提出し、韓国も関連協議に参加したとされる。決議案には前述した「反動思想文化排撃法」の見直しを北朝鮮に求める新たな内容も盛り込まれた。また、外国人に対する拷問、即決処刑、恣意的な拘禁、拉致などを懸念する既存の内容に「遺族と関係機関に(被害者の)生死と所在を含むすべての関連情報を公開するよう北朝鮮に求める」と加筆した。決議案は今月4日まで開催されていた国連人権理事会で採択された。

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