福島第1原発の処理水の海洋放出計画をめぐっては、日本政府が2021年4月、放出の方針を閣議決定した。韓国政府は当時「日本政府からの事前協議がなく、日本側が一方的に決定したもので遺憾だ」と批判した。また、ほとんどの韓国メディアは日本政府の方針を批判的に報道。関連する記事ではこれまで一貫して処理水を「汚染水」と表現している。漁業関連団体からも激しい反発が起きた。日本産の海産物に不安が高まり、韓国産と偽って流通させていたとして韓国の水産業者が摘発されたこともあった。
また、韓国では福島第1原発事故を受け2011年9月から、福島・宮城・岩手など、8県産の水産物の輸入を禁止している。
日本政府と東京電力は安全性を繰り返し強調しているが、韓国政府は処理水の海洋放出について「科学的で客観的な根拠に従い、合理的に、透明性を持って行わなければならない」としている。
先月7日に開かれた日韓首脳会談で、岸田文雄首相とユン・ソギョル(尹錫悦)大統領は、韓国の専門家らによる視察団を日本に派遣し、現地を視察させることで合意した。これに基づき、韓国は原発や放射線の専門家ら計21人で構成する視察団を編成し、先月21日に訪日した。23~24日には福島第1原発を訪れ、処理水を薄める設備や海への放出に使う設備のほか、処理水に含まれる放射性物質を分析する施設などを確認した。25日には経済産業省や原子力規制委員会の担当者らと総括会合を開いた。会合は7時間以上に及び、処理水の海洋放出計画を審査する原子力規制委員会との質疑応答では、委員会が行っている検査や関連資料の共有を要請した。
視察団は先月31日、ソウル市内で記者会見し、視察結果について発表した。視察団の団長を務めた韓国原子力安全委員会のユ・グクヒ委員長は「設備が計画通り設置されていることが確認でき、必要な処理水のデータも入手できた」と視察の意義を強調。一方、「より精密な判断のためには、追加の分析と確認作業が必要だ」とし、処理水放出の安全性に関する評価は避けた。追加分析を行った上で、後日、最終的な評価を公表するとしている。
一方、最大野党「共に民主党」は視察団が尹政権寄りだと指摘。野党が加わった再調査を主張している。同党の広報担当者は「(尹政権の)対日屈辱外交が、韓国国民の食卓の安全を脅かしている」と批判した。
こうした中、放出に不安を感じている消費者の間で塩を買いだめしようとする動きがみられる。聯合ニュースによると、水協中央会が運営するインターネット通販サイト「水協ショッピング」では、天日塩が品薄状態となっているという。塩の需要が高まった上に、今年は天日塩の生産量が減少していることもあって、塩の価格が高騰している。生産量の約8割を占める南西部のチョルラナムド(全羅南道)・シナン(新安)郡では天日塩の6月の販売価格(週平均)が前年12月比32%高の2万39ウォン(約2200円)に上昇した。
韓国政府は、国民の不安を和らげるのに躍起で、15日から、科学的な情報を提供するとして記者会見を始めた。平日は毎日行うとしている。初日の15日は、多くのテレビ局が生放送でその様子を伝えた。
チョ・テヨン国家安保室長は、放出をめぐり、透明性を基盤に客観的かつ科学的な評価を行って政府の立場を決めるとし、「国民の安全と健康を最優先にする」と述べた。また、パク・チン外交部(外務省に相当)長官も「安全が検証されなければ放出に反対する」と強調した。
ユン・ソギョル(尹錫悦)政権は、早ければ月内に公表される国際原子力機関(IAEA)の評価結果などを踏まえ、科学的な根拠に基づき、放出の是非について総合的に判断することにしている。しかし、国民の不安は一向に和らぐ様子がなく、野党も反発を強めていて、政府の方針が理解を得られるかは不透明だ。
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