金日成主席や金正日総書記の肖像画や銅像は、権威を示すものとして何よりも重要視されている。昨年8月、北朝鮮に台風6号が接近した際、朝鮮労働党の機関紙、労働新聞は住民の「最優先事項」として、両氏の肖像画や銅像を守る対策を取ることに「最優先の関心を払わなければならない」と呼び掛けた。また、昨年3月に韓国の統一部が発刊した「北朝鮮人権報告書」によると、2017年には金日成主席の肖像画を指さした妊娠中の女性が公開処刑になった。
金正日氏の死去(2011年12月17日)に伴い、金正恩政権が誕生してから10年余りが経過したが、正恩氏独自の思想体系確立の動きが徐々に出てきている。2020年の秋ごろから国営メディアは正恩氏に「首領」という表現を用いるようになった。「首領」はもともと金日成主席にのみ使われた呼称だ。同年10月の党機関紙、労働新聞と党理論誌「勤労者」による共同論説では、「敬愛する最高指導者、金正恩同志は、わが党を人民のために滅私(私利私欲を捨てること)服務する革命的党として絶えず強化発展していかれる人民の偉大な首領」と論じた。その後、2021年には「卓越した首領」に、同年10月には「傑出した首領であられ、人民の偉大なオボイ(親)であられる敬愛する金正恩同志」と徐々に表現が高まった。肖像画の掲出をめぐっても変化がみられ、2021年1月に開かれた党大会では、前回の開催時に会議場中央に掲げられていた金日成氏や金正日氏の肖像画がなくなっていたほか、大会で改正された党規約では、両氏の業績に関する記述が大幅に減っていた。会議場ロビーに掲げられていたのは正恩氏の写真だった。
北朝鮮で最大の祝日とされる4月15日の金日成氏の生誕記念日「太陽節」も、今年は異変が見られた。北朝鮮メディアは、例年のように「太陽節」の呼称をほとんど用いず、代わりに「4月の名節」などと表現した。「太陽節」の呼称は金日成氏の死後の1997年から用いられるようになった。太陽は「唯一の指導者」を示し、神格化の意図があるとみられている。前日の朝鮮中央テレビではアナウンサーが「偉大な首領、金日成同志の『誕生112周年』を祝って…」などと原稿を読み、「太陽節」という言葉が出てくることはなく、使われたのは当日15日の労働新聞の記事の一つに登場した程度だった。韓国の統一部(部は省に相当)は、「金正恩国務委員長(総書記)が独り立ちを進めている」との見方を示した。また、韓国の公共放送KBSは「体制発足から12年が過ぎる中、リーダーシップをさらに堅固にし、4代目の世襲を見据えた権力基盤の強化を図るため、先代の偶像化を抑える方向に舵を切ったものと分析されている」と伝えた。
こうした中、今月22日の朝鮮中央通信は、前日に行われた朝鮮労働党中央幹部学校の竣工式に正恩氏が出席したことを伝える記事を配信。記事中の写真からは、行内の外壁や教室の黒板の上に、正恩氏の肖像画が、金日成氏、金正日氏と並んで掲げられているのが確認できる。正恩氏の肖像画が、祖父や父と並ぶ形で掲げられているのが公式報道で確認されたのは初めてだ。
正恩氏の権威が、先代と同列に高まったことを示す狙いがあるとみられ、韓国の聯合ニュースは「北朝鮮が金正恩氏の偶像化に拍車をかけているようだ」と伝えた上で、「対外用メディアの中央通信だけでなく、北朝鮮住民が接する党機関紙の労働新聞にもこれらの写真が掲載された」と指摘した。また、「異例のこと」との見解を示した韓国統一部は「今後の偶像化の流れに留意する」としている。
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