囲碁学科の廃科が決まった明知大学
囲碁学科の廃科が決まった明知大学
囲碁の強豪国として知られる韓国で、明知大学の「囲碁学科」の廃科が決まった。囲碁学科があるのは世界で同大が唯一とされる。韓国は今や国際棋戦で強さを発揮するようになったが、その過程において明知大学囲碁学科の存在は欠かせない。韓国紙のハンギョレは「最近、ドラマなどに登場して人気を高めている囲碁の地位を考慮すれば、学科廃止は慎重を期すべきだとの意見もある」と伝えた。

囲碁は3000年ほど前に中国で生まれたとされ、5、6世紀に朝鮮半島を経由して日本に伝わった。20世紀まで囲碁の実力は日本が世界一だった。20世紀初め、プロ組織があったのは日本だけだったため、韓国や中国から多くの人材が日本にやってきた。現代の韓国囲碁界の礎を築いたことで知られるチョ・ナムチョル(1923~2006年)もその一人で、チョは1941年に日本のプロ初段となった後、1943年に韓国に戻り、戦後、囲碁団体のハンソン(漢城)棋院を設立した。漢城棋院は1947年に朝鮮棋院、1949年に大韓棋院と名前を変え、1954年に韓国のプロ集団の総本山、韓国棋院となった。

1956年に始まった新聞棋戦国手戦ではチョが9連覇したのに続き、1959年に始まった覇王戦や最高位戦では日本で囲碁を学んだ韓国の棋士たちが活躍。さらに1970年代にはソ・ボンス(徐奉洙)ら韓国で育った棋士も次第に台頭するようになった。

21世紀に入ってからは韓国と中国が日本を追い越し、覇権を争うようになった。韓国では囲碁人口が増え、今や推定で約400万人とされる。近年では、インターネットやスマートフォンの普及により、オンライン囲碁も人気だ。「囲碁は考える力を伸ばし、学業の成績も上がる」などと考えて子供に囲碁を習わせる親もおり、囲碁の塾まで存在する。プロ棋士を養成する「囲碁道場」も数多くある。食事や洗濯などの世話をしてもらえるなど、囲碁に専念できる至れり尽くせりの環境でエリート棋士が養成されている。

今や囲碁界で韓国は無類の強さを誇り、今年2月に行われた日中韓勝ち抜き団体戦「第25回農心辛ラーメン杯(農心杯)」では4連覇を果たした。

一方、今年3月には、日本で囲碁の女流タイトル獲得の最年少記録を持つ仲邑菫(なかむらすみれ)三段が韓国に移籍したことが日韓両国で話題となった。移籍後、記者会見した仲邑三段は、韓国の囲碁界について「全体的にレベルが高く、研究が進んでいる国だ。囲碁の細かいところを大事にする雰囲気があり、そういうところを強い先生たちから学んでいきたい」と語っている。

囲碁界における韓国の台頭には、ソウル近郊のキョンギド(京畿道)ヨンイン(龍仁)市にある、明知大学囲碁学科の存在が欠かせない。同学科は世界初の囲碁学科として1997年に設立された。100人ほどの少数精鋭制を敷き、囲碁の普及を担う人材の育成や囲碁学の確立、囲碁教育プログラムの整備など、韓国の囲碁界を支える中心的な役割を果たしてきた。学生たちは囲碁の技能のみならず、囲碁史、囲碁教育論、囲碁文化論など、囲碁を学問として幅広く学んでいる。同学科はこれまでに19人のプロ棋士を輩出している。

しかし、明知大は2022年から同学科の今後について議論を始め、このほど、経営悪化と囲碁をする若者の減少を理由に廃止を決定した。来年から学生の募集を停止するという。この決定には、韓国の囲碁の競争力が低下しかねないとして懸念の声が上がっている。韓国紙のハンギョレによると、大韓囲碁協会のチョン・ボンス会長は「中央アジアや欧州、台湾でも囲碁の熱気が高まっている。韓国選手は世界最高の座を維持しており、『K-囲碁』を進めるためには普及拡大を図らなければならない状況であるのにも関わらず、それに反して学科を廃止するのは理解できない」と指摘した。

同学科には海外からの留学生も多数通っているという。東亜日報によると、同学科のナム・チヒョン教授は同紙の取材に、「日本、中国から留学生が多く来ている状況で、廃科を決定したのは非常に残念だ」と話した。同学科の廃科を惜しむ声は海外からも寄せられている。

ナム教授と学生69人は廃科計画の停止を求めて裁判所に提訴したが、今月7日、ソウル高裁はこれを棄却した。ナム教授らは再抗告状を提出。大法院(最高裁)の判断を待つことになる。

ハンギョレは「囲碁のプロ棋士になるルートは大学以外にも様々あるが、これまで明知大学囲碁学科は、プロ棋士以外にも囲碁のすそ野を広げる多様な人材を育てる役割を果たしてきた」とし、「だからこそ、囲碁界全体が学科廃止に動揺している」と解説した。

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