当時20代だった著者は、韓国企業が工場を置いた開城工業団地で給食施設の栄養士兼現場責任者となり、毎週月曜日にソウルからバスで1時間余りの開城に向かい、週末に韓国に戻るという生活を送った。同書は、開城で出会った北朝鮮の人々のありのままの素顔をつづったノンフィクション。
抑圧的な社会構造の中で生きる北朝鮮の従業員らは最初素っ気ない態度を取っていたが、次第に心を開いていく。
著者は妊娠した従業員にこっそり栄養食を渡したり、調理の際に手にけがをした従業員と2人きりになった時に薬をつけてあげたり、直接触れ合う機会が制限されるなかで真心を尽くした。
子どもを持つ母親も多い従業員たちは夜明け前に起き、家事や家族の弁当づくりを終えてから出勤していた。食事会で肉を振る舞っても従業員たちは家族のために持ち帰り、その場で口にすることはほぼなかった。
著者はこう語る。「彼女たちの苦労は私の祖母の世代の苦労と変わらないと思った。でも彼女たちの年齢は23歳だった。生きていれば100歳を超えている祖母が23歳だった頃の日常が、私の目の前にいる若い母親の日常だった」
北朝鮮当局による一方的な労働者の賃上げ通告、北朝鮮兵が非武装地帯(DMZ)に仕掛けた地雷による韓国兵の死傷事件などに翻ろうされながらも距離を縮めていた著者と従業員たちだったが、突然の別れがやってきた。16年1月の北朝鮮による核実験を機に、足かけ12年操業した工業団地が閉鎖された。
日本語版の出版を企画し、翻訳を手がけた岡裕美さんは「本書を通じて、南北統一に役立ちたいという志を持つ著者が見た等身大の北朝鮮の姿を知ってほしい」とコメントした。
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