尹氏は昨年12月、「非常戒厳」を宣言した。非常戒厳は韓国憲法が定める戒厳令の一種。戦時や事変などの非常事態で、軍事上、必要となる場合や公共の秩序を維持するために大統領が発令するものだ。行政や司法の機能は軍が掌握し、言論・出版・結社の自由を制限することも認められる。戒厳令の発出は1987年の民主化以降、初めてのことだった。
宣言を受け、武装した戒厳軍の兵士がガラスを割って国会議事堂に突入。軍事政権時代を連想させる事態に、国会前には多くの市民が集まり、戒厳に反対するシュプレヒコールを上げたほか、軍の車両を取り囲むなど騒然とした。
だが、戒厳令は国会議員の過半数が解除を求めた場合、大統領はこれに応じなければならず、発令直後、国会で本会議が開かれ、出席議員の全員が解除に賛成。尹氏はわずか6時間で非常戒厳を解いた。
尹氏が突如宣言した「非常戒厳」は早期に解かれたものの、韓国社会に混乱をきたし、現在も不安定な政治状況が続いている。「共に民主党」など野党は、尹氏が「憲法秩序の中断を図り、永続的な権力の奪取を企てる内乱未遂を犯した」などとして憲法違反を指摘し、尹氏の弾劾訴追案を国会に提出した。昨年12月、採決が行われ、賛成204票、反対85票で同案は可決した。これを受け、尹氏は職務停止となり、現在、チェ・サンモク経済副首相兼企画財政部長官が大統領の権限を代行している。
同案の可決を受け、憲法裁が6か月以内に尹氏を罷免するか、復職させるかを決めることになった。罷免となった場合は、60日以内に大統領選挙が行われる。
憲法裁では先月から弁論が行われており、尹氏も自ら出席して弾劾の不当性を訴えている。憲法裁では13日、弾劾審判の8回目の弁論が開かれた。審理の進行が拙速との批判も出る中、同日、当初予定されていた全ての弁論が終わった。尹氏の弁護団は、これまで8回の弁論では尹氏に不利な証言が多かったことに不満を抱いており、13日の第8回弁論で、尹氏の弁護団のユン・ガプグン弁護士は、ハン・ドクス首相を証人として呼ぶよう求めた。ユン・ガプグン弁護士は「(ハン首相は)今回の『非常戒厳』の原因について誰よりもよく知っている」と主張した。これに先立ち、尹氏の弁護団は11日にハン氏を証人として呼ぶよう申請したが、憲法裁はこれを却下していた。ユン・ガプグン弁護士は「重要な証人として申請したが、関連性が低いという理由で却下された。具体的な説明がなく、なぜ関連性が低いのかわからない」と述べた。
憲法裁は当初、13日までの予定だった弁論期日の延長を決めたほか、弁護団からの証人再申請を認め、ハン首相ら3人を弾劾審判の証人として新たに採用。ハン氏は29日の第10回弁論で尹氏側の証人として出廷する。
一方、ユン・ガプグン弁護士は13日の第8回弁論で、憲法裁が「違法で不公正な審理を続けている」とし、「今のような審理が続くなら、弁護団は重大な決心をせざるを得ない」とも述べた。ユン弁護士の口から飛び出した「重大な決心」との発言に、韓国メディアは注目。「重大な決心」とは弁護団の総辞職を意味しているのではないかと伝えている。弁護団が総辞職した場合、新たな弁護団結成のためには相当な時間を要することになり、憲法裁の結論を遅らせることができ、これを狙ったものではないかとの見方だ。「拙速」との批判も出ている尹氏の弾劾審判の進行状況では、3月上旬から中旬にも弾劾の是非の決定が下される可能性が高い。尹氏が罷免されるか否かに関わらず憲法裁の決定が与える影響は大きく、尹氏側としては、憲法裁の宣告前に、尹氏が自ら下野する選択を取ろうとしているのではないかとの見方が出ている。退陣すれば大統領に対する同情世論も高まり、その後に行われる大統領選挙でも与党「国民の力」に有利な展開に持ち込めるだろうとの政治的計算が働いているのでないかと指摘されている。
憲法裁の結論を遅らせるため、弁護団が総辞職して、まずは「時間を稼ぐ」戦術かとの見方も出ているが、韓国紙の東亜日報によると、弁護団の関係者は「『重大な決心』には弁護団の総辞任を含む2、3の案を考えているが、(大統領)退陣の可能性は考慮していない」と話し、こうした見方を否定した。
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