韓国女優ソン・イェジンは20代前半だった2002年の「恋愛小説」以降、ほぼ毎年、1編ずつの映画に出演している。ホ・ジノ監督の「四月の雪(原題:外出)」(2005)のようなロマンス物や「君に捧げる初恋(原題:初恋死守決起大会)」(2003)のようなロマンチックコメディがほとんどだった。

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 12月1日公開のファン・インホ監督作「不気味な恋愛」も大きな枠組みではこのような範囲から抜け出していない。しかし“ホラー”という要素が入った点では、前作たちとは少し異なるようだ。映画公開の一週間前にあたる11月24日、ソウルのカフェでソン・イェジンに会った。

 「観客に新たな姿を見せ続けたいという欲望があります。何か風変わりなものを探しているときに『不気味な恋愛』に合いました。ロマンチックコメディとホラーの混合が魅力的でした。しかし、新人監督が演出するという点で少し悩みました。これまでも新人監督との仕事は多く慣れてはいたのですが、経験豊富な監督であれば、わたしの中に隠れているものを引き出してくれるのではと考えていたからです。しかし、監督によってやめるには、あまりにももったいないシナリオでした。勇気を出すしかありませんでしたね」

 映画は幽霊を見る能力のある女性ヨリ(ソン・イェジン)が恐れ多く小心者の魔術師チョグ(イ・ミンギ)に出会い、初めて恋に溺れていくという内容だ。ラブストーリーに女性同士の友情、恨みなどさまざまな要素が入り乱れた独特な作品だ。彼女は劇中、幽霊たちの願いを解決する女性を演じた。幽霊とともにしながら感じる憂鬱さや近づく愛を慎ましく受け入れる、感情の振幅が大きい人物だ。「どこまで悲しくてどこまで突拍子もない行動をしなければならないのか、またどれだけ愛らしくどれだけ驚かなければならないのか、そんな感情の調節が難しかったです。そして、幽霊を見て恐怖を感じるシーンを初めて演じたのですが、容易ではありませんでした。カメラを見る視線、瞬間の没入、呼吸のようなものを新たに学びました」

 映画で躁鬱を繰り返すヨリの状況のように、女優もまた躁鬱を行き来することがある。明るく純粋な、そうでありながらしっかりとした姿でスクリーンに登場するが、ソン・イェジンは「普段は悲しみを多く感じる」という。「わたしの中には悲しみが多いと思います。時には肯定的な考え方もしますが、どうしても考え事が増えると下に感情が沈みます。悲しい考えが相次いできます。楽観的な考え方をしたらどれだけ楽なのか、わたしの性格は楽天的ではないのです(笑)」

 彼女は「恋愛小説」以降、主演としての地位に立って9年ほどが経った。「女優として美しくもなく、適当な顔」というソン・イェジンは「最高の俳優になろう」という一心で20代を過ごした。「進化し、良くも悪くも肉が付いて成熟した演技をしたい」という熱望は変わりないが、歳を重ねながらヒロインは長い間演じられないという事実も知った。「20代はこの仕事がすごく良かったのですが、それだけ大変なこともありました。女優として20代を生きることは容易ではありません。多くの人の判断を受けなければならないからです。いつまでしなくてはならないのか、30代中盤にはやめなければならないのでは、そんな思いにかられることもありました」

 最近の映画、特に「タワー」(2012)を撮影しながら、そんな考えが違う方向に流れ始めた。歳月の知恵がきちんと積もった演技に対する渇望が芽生えだしたのだ。「ある瞬間、熟練した先輩たちの演技が良く見えました。『タワー』でソン・ジェホ先輩が静かに立っているシーンがあったのですが、(ただ立っているのではなく)演じているような感じを受けました。先輩の生き方が演技で、ひとつの作品のようでした。シワから立っている姿までそのすべてが演技に見えました。わたしも先輩のようなカッコいい演技ができるようになりたいと思ったんです」

 彼女は長い時間演技をしながら、自分自身の持つ限界を壊し続けたいと、強調した。「俳優は自分自身の管理をうまくすれば認めてもらえるという点で、一般の職業とは違うと思います。歳を取ることは嫌ではありません。もし恐ろしいと感じるのであれば演技はできないと思います。若さの輝きはいつかはなくなるものですから。ヒロインもすぐ演じられなくなるでしょう。しかし、それがすべてではありません。ソン・ジェホ先輩やキム・ヘスク先輩のような演技をしたいです。そうするために段階的に自分自身を管理しながらその歳に合った演技を心がけたいです」

 人生で3編の映画しか作れないとしたら、どんな作品に出演したいか尋ねた。「一時、『俳優人生の作品はひとつ』と思ったことがあります。今もその考えがないとは言えません。『テルマ&ルイーズ』のような女性の友情やラブストーリー、『ダーティ・ダンシング』のようなセクシーダンスや男女の愛、そしてナタリー・ポートマンが出演した『ブラック・スワン』やイザベル・ユペールが演じた『ピアニスト』のように、わたしを捨ててできる凄まじい演技をしてみたいです」