直木賞作家・朝井リョウの同名連作短編小説を映画化した『少女は卒業しない』が、2023年2月23日(木・祝)より全国公開した。

廃校が決まり、校舎の取り壊しを目前に控えたとある地方高校を舞台に、世界のすべてだった“学校”と“恋”にさよならを告げる4人の少女たちの卒業式までの2日間が描かれる本作。原作は、直木賞作家・朝井リョウの連作短編小説。監督・脚本を手掛けたのは、短編映画『カランコエの花』が国内映画祭で13冠を受賞し話題を呼んだ中川駿。彼氏へのある“想い”を抱えながら卒業生代表の答辞を担当する料理部部長の主人公・山城まなみを演じるのは、本作が初主演となる河合優実。将来の夢のために進路の違いで彼氏と離れることを選んだバスケ部の部長・後藤由貴役には小野莉奈。軽音部の部長で同じ部内の中学校からの同級生に恋心を抱く神田杏子役に小宮山莉渚。クラスに馴染めず図書室に通いながら先生に密かな想いを寄せる作田詩織役に中井友望。まなみの彼氏・佐藤駿役に窪塚愛流。神田が片思いする軽音部員の森崎剛士役に佐藤緋美。バスケ部員で後藤の彼氏・寺田賢介役に宇佐卓真。そして、作田が恋焦がれ図書室を管理する現代文の先生・坂口優斗役を藤原季節が演じる。

この度、本作の公開を記念して初日舞台挨拶を実施された。主演の河合優実をはじめ、小野莉奈、小宮山莉渚、中井友望、中川駿監督が登壇した。卒業シーズン到来のこの時期にちなんで、卒業式を振り返り、学生時代の思い出話に花を咲かせた!そして、キャスト・監督へのサプライズとして、原作者の朝井リョウからの手紙を披露した。

映画『少女は卒業しない』が2月23日(祝・木)に公開を迎え、渋谷シネクイントにて行われた初日舞台挨拶に河合優実、小野莉奈、小宮山莉渚、中井友望、中川駿監督が登壇した。サプライズで原作者の朝井リョウからの手紙が朗読され、会場は感動に包まれた。

エンドロールが終わると客席からは拍手がわき起こる。本作で映画初主演を務めた河合は現在の心境を問われ「家からここに来る間、初主演映画が初日を迎えるのは人生で今日一日だけなんだなと感慨深い思いでしたし、ここに立って、みなさんひとりひとりのお顔を見て、心から『ありがとうございます』と伝えたいという思いです」と胸の内を語る。主演の重みについては「群像劇で、私だけ出ずっぱりの主演ではないので、そこまで気負わず、できることをしようと思っていたのですが、やり始めると『背負っているんだな』という感覚も出てきたし、その気持ちをいい意味で使おうと一歩、いつもより勇気を出して表現してみたり、監督と積極的にコミュニケーションを取って、いつもよりコミットしようとしていました」と明かす。

小野は現場で自ら監督に様々な提案をして、演技に反映させていたとのことで「段取り段階で、(役柄の)後藤として動いたり、セリフを言ったりして、それを監督が拾ってくださった感じです。親友と校庭のベンチに座って悩みを打ち明けるシーンで、急に立ち上がったのもそうで、後藤として自然な気持ちで動いていました。自転車で歌っていたのもオリジナルです」とふり返った。

小宮山は4人の中で唯一の現役高校生だが「自分に何ができるか? と考えたとき、現場の雰囲気を学校っぽくしようと考えました。役柄は軽音部の部長でしっかりしているんですけど、普段の私は学校でふざけたり、明るいキャラなので、しっかり者と自分の明るさの両方を出せたらいいなと思いながらも、その組み合わせが難しかったです」と現場での苦労を語る。そんな小宮山について、小野は「初めて会った時に食べ物の話で盛り上がって『あそこのお店の新作ドリンク、これなんだ』って教えてくれました。、私も学生の頃、新作ドリンクの話で盛り上がったなと学生らしさを感じました」と明かしてくれた。

中井は、クラスになじめず図書室で過ごす作田を演じたが「私も学校という場所があまり得意じゃなくて、青春ってものがしっくりこなくて、キラキラしたものに見えて…、でも憧れちゃうという、ややこしい感情を持っていたな…(苦笑)と、自分と重ね合わせることできました」と役柄への共感を明かす。

中川監督はそんな4人の個性に合わせ、接し方や演出を変えていたという。「河合さんとはいろんな話をしましたね。芝居単位じゃなくて作品単位で『このシーンはこういう意味がある』とか細かいカメラアングルやカット割りの話もしました。その感覚は新鮮で、すごくうまくいったなと思います」と述懐。一方、小野とのやり取りについては「基本的に、みなさんに僕が書いた脚本、演出が必ずしも正しいわけじゃないというお話をして、みなさんがこうした方がいいと思ったら自由に変えていいと伝えたのですが、それを一番体現してくれたのが小野さんでした。すごく自由で『こう来るか!』と僕も段取りで知ったり、それが本番でさらに変わったり(笑)、予定調和を壊してくれるのが嬉しかったし、だからこそ小野さんのシーンは活き活きしていると思います」と称える。

小宮山については「純真を絵に描いたよう」と評し、思わず小宮山は「純真って何ですか(笑)?」と首をかしげる。中川監督は「小宮山さんは本当に現場を明るくしてくれました。演出どうこうというより、力をもらえてありがたかったです。昨日、リリースされた記事で、4人が人生の転機になった作品を挙げているんですけど、小宮山さんが挙げたのは『クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』(笑)。一生そのままでいてほしい!これからもそう言い続けてください」とお願いしていた。そして、中井については「作田のキャラクターとパーソナリティが近くて、僕は『余計なことをしないようにしよう』と個性を邪魔せず、活かす演出をしていました。中井さんとは本読みができなくて、いきなり本番で不安もあったんですけど、現場に入ってみたら絶対に大丈夫だと思いました」と役柄とのシンクロ率の高さを称えた。

改めて、キャスト4名に「卒業式」の思い出を尋ねると、河合は「うちの高校の卒業式はお祭りみたいで、(卒業証書授与で)登壇しても、みんなが『優実!』と掛け声がすごかったりして、楽しい思い出です。あと、私も(劇中で演じたまなみと同じように)答辞を読みました」と明かした。ちなみに撮影時、監督にも答辞を読んだ経験があることを伝えてなかったそうだが、河合は「リアルな感覚で、意外と忘れてました(笑)」とあっけらかんと明かし「きっとまなみにとっても人生の1ページにしかならないんじゃないかなと思いました」と語る。

小野は、高校の卒業式で袴を着用したそうだが「呼ばれるのを待って座っていたら気持ち悪くなって…。袴がきつすぎて呼吸ができてなかったみたいです(笑)。控室で横になっていたんですが、呼ばれる5人くらい前に『そろそろだよ』と言われたら切り替えて、なんともなかったように卒業証書をもらいました」と“名優”ぶりを明かす。

小宮山は高校の卒業式はこれからだが「中学の時はコロナ禍でちゃんとした式ができなかったんですが、映画でちゃんとした卒業式を経験して、クラスメイトと体育館で一緒にできたらと楽しみな気持ちがわいてきました」と笑顔を見せる。

中井は「高校を途中でやめちゃったので(卒業式に)出ていなくて、映画で体験させてもらってありがとうございますという気持ちでした」と語りつつ「学校が苦手な人からしたら、式とか行事ってもっと苦手なので、撮影とわかっていても『この時間、早く終われ!』と思っていました(笑)」と撮影の卒業式があまりにリアルゆえに居心地の悪さを感じたと明かし、客席は笑いに包まれていた。

そして、監督、キャストには完全サプライズで、原作者の朝井リョウからの手紙が届けられ、MCがこれを代読。映画の公開を祝うと共に「私は今作を観たあと、持参していた傘を会場に忘れたまま、車で来た道を徒歩で帰り始めてしまいました。小さな奇行を連発してしまうくらい、興奮していたのです」と語り、担当編集者と帰り道に本作について語り合ったことを明かし「素敵な映画というものは、観賞中はもちろん、劇場からの帰り道までも幸福な記憶にしてくれる」と称賛。そして4人の女優に出演のお礼を述べ「原作者のひそかの楽しみは、自分の作品に出てくださった方々を、その後、色んな場所で見つけること」と今後のさらなる飛躍への期待をしたためる。中川監督に対しても「今作を観たあと、丁寧で、邪念のないものづくりに触れたときにしか得られない充実感で胸がいっぱいになりました。本当に監督に撮っていただけてよかったです」と最大限の賛辞を並べた。

朝井の言葉に河合は「すごくグッと来てしまいました…」と感慨深げに語り、「朝井さんは『丁寧で邪念のないものづくり』と表現してくださいましたが、まさにそれを私も感じています。この4人、そしてそれぞれに寄り添ってくださった中川監督と『珍しいことだな』と感じるくらい、まっすぐな気持ちで作った映画です。なので、みなさんが素直にどう感じたのかをすごく楽しみにしています」と映画を観終えたばかりの観客に語り、温かい拍手の中で舞台挨拶は幕を閉じた。